第14話 巫女さんその1。





 ──巫女とか無理だからね?


 あ、でも巫女ってことは、一生を神様とかに捧げちゃうっていう、生涯独身的なアレですかね?

 それだったら別に構わないけど。

 そもそも今までの転生で、結婚してたのって直近の前世だけだし。



(あ、そうか、そしたら、王家の婚約話も無しになるんじゃないかな!)



 ただ、聖女もだけど巫女とか呼ばれてる人は、基本的にすごい美人さんだし。

 こっちの世界の巫女も、緋袴みたいな独特な衣装あるのかな?


 前世の世界の巫女さんは、初詣の時に舞の奉納っていうのをやってた記憶がある。

 巫女舞って言うんだっけ?

 そういうのもご披露しちゃったりするのかな?


 本職の神職、巫女の方々のは申し訳ないけど……。

 私の頭の中の巫女と言えば、緋袴をベースに創られた、コスプレやゲームの可愛い娘さん達しか浮かんでこなかった。


 ちなみに巫女舞や巫女神楽などの舞の奉納は…むしろ孫たちのお遊戯会のダンスやらを思い出した。


 いやほら、私、今は3歳だし?

 どんなに頑張っても荘厳とか神々しいなんて表現できるような舞にはならないと思うんだよね?


 ちょっとだけわくわく始めた私を余所に、白いもふもふの声はどんどん不機嫌になっていくし、父様も母様も、セグシュ兄様まで声のトーンが落ちていく。



「龍の巫女をたてるのは、100年ぶりのことだから、いかんせん情報が無い、俺も過去の記録から調べてみたが、巫女がどんなものかはわからなかった」



 宰相である父様がわからないんじゃ、お手上げ。しかも100年ぶりじゃ、その巫女本人から聞くこともできないだろうし、生涯独身と考えたら、その身内や近しい親族を探すことも難しいだろう。



「今まで居なかったのだから、今さら必要な理由ってなんだろうね?守護龍の護りが無くなるとか?」



 うーん、私の前世達の記憶を必死に辿ってみた。

「守護龍の守護がある」という王国はいくつか存在していたんだけど、実際に守護龍がいるかどうかは……かなり怪しい国が多かったんだ。

 きっと、過去には守護してくれていたのかもしれないけどね、気づけば守護を失っていた国が多かったと記憶している。


 守護を失ってもなお、守護龍の存在をほのめかし、守護があると言い張る理由としては、国としての格が上がるからだ。


 この世界には魔物とか精霊とか、それこそドラゴンも普通にいたけど、こうやって一国の守護を担う程の、高貴なランクの龍種はそうそういない。


 この世界には竜も龍もいる。それこそ竜騎士という騎士が乗る様な、意思疎通ができて騎乗や飛行ができるのもいれば、見境なく襲いかかってくる様な低ランクの竜種…というか、ぶっちゃけただのトカゲみたいなのもいるし。


 国の守護ができるような高貴な種族になると、人化したり精霊や多彩な魔法を行使したり、もはや生物の枠を超えている感じになる。



「魔力に強い縁のある生き物である、守護龍の護りの契約は、精霊などと同じで血で行われるんだ」



 血と言えば!



「いけにえ……?」


「あぁ、違う違う。ふふっ…セシリアは面白い言葉を知ってるんだね」



 どうやら違ったらしい。

 早々に殺される気は無いけど、どんな黒魔術的なものが出てくるのかと、ちょっと気になったんだけど。


 セグシュ兄様に揶揄うからかうようにニヤリとされる……。

 外だと令嬢がくらくらしちゃうような美貌の甘いカッコ良さがあったんだけどなぁ。

 家では素が出るのか、それとも子供に戻るのか、昔のままだった。

 せっかくのイケメンさんだし、中身ももうちょっと成長してくれることに期待するよ。



「あのね、龍もだけど精霊とも仲良くなると、契約ができるのよ。その中には血を対象に行われるものがあるのよ。血って言うのは血筋って事だね」


「そうそう!例えば父様が契約を交わした精霊がいれば、その血に連なる者、つまり父様の子である僕たちにも、薄くだけどその契約の恩恵が得られるって事だよ、血の契約は遺伝の様に受け継がれていくんだ」



 今の王家は……お披露目前の王子もいたし、国王本人も王妃も、不調なんて話は聞いてない。

 なので、守護が無くなる、という心配はなさそう。

 龍の巫女って本当に何者なんだろう?


 ……それにしても、とセグシュ兄様が笑う。



「セシーの発想だと、王家に守護龍の守護を契約するために生贄がいるとか、物騒すぎるでしょう?…っははは!」



 ネタ切れです。と言わんばかりに、龍の巫女についてはセグシュ兄様の発言以降は誰も意見や説明が出ず、会話が落ち着いてきたように見えたので、話題を変える!



「としゃま、おなまえ、きめました!」


「お、良いタイミングだね!教えてくれるかい?」



 誰でも呼びやすく、覚えやすく、可愛らしい名前!決まりましたよ?



「きめたよ、きゅたん!このこ、きゅたん、ね」



 どうよ?と周囲を見渡す。

 力作だからね!これなら絶対にみんなから愛される名前だよ!



「きゅ…たん?…ぶっ…はっははは!きゅーちゃんで良いの?」


「うん、きゅたん!」


「ぴ…ぎゅ!」



 ほら!白いもふもふ改め、きゅうちゃんも、瞳を大きく開いて大きな鳴き声をあげたし、これは感極まってるに違いないよ!



「あははっ…!お前、きゅーちゃんだって!可愛いな「ぎゅうう!ぴしゃあああー!」痛っ!ごめっ!きゅーちゃん、やめっぶふっ……」


「うふふっ……きゅうちゃん、可愛いわね」



 セグシュ兄様ときゅうちゃんがじゃれ合ってる。

 きゅうちゃんは大型犬サイズで、猫の姿になっているので、じゃれられるだけでも結構痛そう。


 母様も溢れるような笑顔で可愛いって言ってくれたし、完璧なネーミングだよねっ!

 ほら、みんな一発で名前覚えてくれたし、これで決定だよね!



「きゅたん!」


「ぴゃー!ぎゅううう!」



 ご披露も兼ねて、もう一度きゅうちゃん、と名前を呼ぶ。

 きゅうちゃんは、潤んだ瞳でこっちを見上げて感激の眼差しだ。良い仕事した!


 セグシュ兄様と母様はにこにこなのに、父様は頭を抱えてるように見える。



「あー、セシリア?一応言っておくけどその子、男の子だからね?きゅうちゃんはやめてあげて…かっこいい名前考えてあげようね?」



 父様だけ、ご不満だったようだ。



「──それでは、ゼンナーシュタットは、如何でしょうか?」



 歌うような澄んだ、優しい声とともに流れるような青い髪の美丈夫が、その場に姿をあらわす。

 食堂のドアが開いたり、入室の気配もなく、すうっとその場に煙が湧き上がるかのように実体化した様に見えた。


 確か、魔力測定会でフォローしてくれた人……のはず。

 相変わらず綺麗な人だなぁ。でも、なんか縮んだ気がする。今まで会ったより若い…?

 今の背格好はセグシュ兄様と同じか、少し低いような気がする。


 ……夢にまで見るほど気になってた人だろうから、記憶を美化しすぎちゃってたんだろうか?



「宰相殿、大聖女殿、ご家族との団欒を中断させて申し訳無いのですが、急ぎなもので失礼いたします」



 父様と母様に近づいて挨拶をして、その傍に転がってるセグシュ兄様と格闘中のきゅうちゃんに近づき、少し呆れ気味な表情になる。



「君もまずは『落ちつく』ということを覚えなさい。マナーは教えたはずだよね?……このままでは、きゅうちゃんで決定…っふふ……してしまうよ?」



「…セシリア!きゅうちゃんはやめて!」


「喋った!お前喋れるのか!きゅーちゃ……いてっ!」



 私の声ではない、鈴を転がすような可愛らしい子供の声が響いた。

 セグシュ兄様の様子から、声の主はきゅうちゃん。

 きゅうちゃん、喋れたんだねぇ…。


 ただ、きゅうちゃんが喋れた驚きよりも、必死な声の内容!

 きゅうちゃんって嫌かな…絶対可愛いと思ったのに。

 ていうか、セグシュ兄様、きゅうちゃんと仲よすぎ。

 いつまでじゃれて絡まってるんだろう?



「お約束通り、会いにきましたよ。──セシリア嬢。改めて挨拶するね?私はアナステシアス、この国の守護を頼まれてる龍だよ」



 紅茶に入れようとお砂糖を持ったまま固まる私に近づき、覗き込むようににこりと微笑み、話しかけてくる。


 えっと…こういう時の作法ってどうしたらいいんだろうね?


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