第7話 お菓子と紅茶と庭園。



 セグシュ兄様から解放された私は、ひとまず壁の華になるようにジリジリと移動して、お菓子キープ!

 マカロンのようなものから、焼き菓子、パイにケーキにフルーツまであった。



(さすが王家主催!お菓子の質が素晴らしい!)



 紅茶も産地別に何種類か入れてもらえるっぽいので、ラベンダーのような香りのする紅茶をお願いした。

 正直下手に歩き回ると、お菓子を握って全身べったべたになった子供が走り回っているから、いろいろと巻き込まれそうで怖い。


 会場の壁付近に設置されているテーブルを確保して、お菓子を食べつつ周囲を見渡す。


 会場の少し奥の方に、いくつか人集りができている。

 挨拶回りの群れかな?と見ていると、その群の中心人物はセグシュ兄様。



(……何故?)



 夜会でもないのに、若くて綺麗なおねーさまに囲まれてる。


 まぁ両親ともに美男美女だから、その息子であるセグシュ兄様もモテないはずがないか。

 でもさ、もう売約済みだからね?

 婚約決まってるんだから。


 もう一つの人集りはソフィア妃で、会場の奥の壇上の近い位置に見える。

 隣に母様も見える。



(母様が見えるってことは、そこが魔力測定の水晶玉が置いてあるところなのかな?)



 さらにもう一つの、一番大きな人集りは多分、レオンハルト王子。

 多分、というのは大人と子供の入り雑じった人集りで私の視界から埋没しちゃってるからだ。



(やっぱ、王子様ってモテモテだよね!)



 私は極力お近づきになりたくないけどね。

 王家の関係者になれば、公爵家以上に行動の制限がつきそうだし。

 それは私の行動やりたいことの障害にしかならないから。



(ちなみに、やりたいこと?まだ決まってないよ?)



 まぁ、かく言う私も公爵家の娘なので、さっきから視界をうろうろと、同席したそうな話しかけたそうな子が集まってきてる。

 正直面倒だし、無視できるものなら無視しておきたいので「お菓子に夢中ですよ」という雰囲気オーラを頑張って出して、気づかないふりをしてる。


 お友達は欲しいけど、取り巻きは私自身が性格悪く見えそうだから要らないし、そもそも「公爵家」と言うネームバリューが前提のお付き合いは友達ではないでしょう?


 ま、簡単に言えば「面倒な付き合いはいらない」それこそ大人になってからでいい。



(あ、いや、大人になってからでも面倒なのとは是非ともご遠慮願いたい!)



 さて……ふんふんと鼻息荒く考え事しながらお菓子を摘んでたら、ちょっと食べ過ぎた。

 そういえばお城って、庭園がいっぱいあるんだよね。


 今回は夜会ではないけど、庭園も会場の一部として開放されているって、食事の時に父様達の会話で聞いた気がする。

 ……よし、腹ごなしに散歩してこよう。



(どうせ、魔力測定の順番も、これだけ賑やかなら入場の時のように最後だろうし)



 周囲をきょろきょろと見回すと、私の席のさらに後方の壁でレースのカーテンが風に煽られてふわりと広がるのが見えた。

 繊細なレースが編み込まれた、たっぷりとドレープが仕込まれた素敵なカーテンで、中に編み込まれた金糸銀糸が、外からの光を柔らかに室内へ広げている。


 さらによく見ると、奥にガラス張りの大きな扉が開け放たれていて、バルコニーが見える。

 きっとそこが、庭園への出入り口だろう。


 会場の子達は魔力測定と王家、おまけでセグシュ兄様に群がるのに一生懸命なようで、バルコニー付近には誰もいない。


 さっきから風とともに良い香りがしてたんだ、これは期待して良い、香りだ。

 ……私の好きな薔薇が植えてあるという、香りだ。これは楽しみだ。



 きらきらと光を反射させながら風に舞う、カーテンを潜り抜けてバルコニーへ出ると、一気に広がる視界。


 そして、眼下に広がる平面幾何学式庭園。


 薔薇をメインに使った左右対称に広がる植栽、構図も共に立体感を出してあって、庭師の才と意気込みを感じる。



「うわぁ……これは、しゅごい」



 ──庭園は、とにかく凄かった。


 前世で薔薇が好きでたくさん育てていたけど、その比ではない。


 よくイラストで描かれたり、花束に使われるような高芯咲きじゃなくて、カップ咲きとかロゼット咲きって言われる、丸っこいコロコロとした花の形で、大人の手のひらサイズのバラが咲き乱れていた。



(きっとこういうのを壮観、って言うんだろうねぇ)



 花束によく使われる、高芯咲きも素敵なんだけどね、あの種類の薔薇は咲き姿を重点的に品種改良されてきたから、花持ちは良いけど香りがほとんど無いんだ。


 ちなみに花弁の枚数は、30枚から40枚くらいで、前世で育てていた品種は一週間近く綺麗に咲き続けてた。

 花弁は散りにくく、花が終わっても散ることはないので、咲き終わったら薔薇の病気予防のために花を摘まないといけない。



 逆にカップ咲やロゼット咲きと呼ばれているものは、香水の原料に使われるのが目的だったんじゃないかな?って思うくらいに花弁の枚数が多くて香りが多彩で強いの。

 実際に香水に使われている品種も多くて、前世では香水のためだけに作出された薔薇もあったと記憶している。


 ちなみにこちらは花弁が多いものだと一輪に100枚以上あったりする。


 ただ、花持ちはあんまり良くなくて咲いて1日もしたら、バッサリとその大量の花弁を落としてしまう。

 その花弁を落とす瞬間もとても素敵でね。


 一輪につき100枚近い花弁が、少しの風で桜吹雪のように散っていくんだ。

 その強いその薔薇の香りとともに。


 ちょっと風の強い日があると、地面が一面花びらで埋もれてることがある。

 めちゃくちゃ綺麗で、地面に香水ばら撒きましたか?ってくらいに良い香りの空間になるんだ。


 まぁ、こっちも薔薇の株の病気の心配があるから、楽しんだ後は大量に散った花弁のお掃除が必須だけどね。


 あの花弁を集めて乾燥しただけでも、ポプリとして使えるし、お風呂に浮かべても良い。



(──あぁ、懐かしいなぁ)



 自宅に帰ったら父様母様にお願いして、薔薇のお庭を作ってもらおうかな。

 品種改良なんかも、してみたいな。



 左右対称の配置で、一定距離ごとに視界を遮るように作られたオベリスクが立体感を出している。

 一定の距離ごとに設置された、アーチも噴水も素敵。

 所々に大きめのオベリスクを大きくして東屋にしたような…ガゼボって言うのかな?


 さらに中心に一番大きなガゼボが見える。



(よし、あのガゼボ目指して薔薇を堪能しよう。それなら迷っても、セグシュ兄様も私を見つけやすいはず)



 3歳児の身長なんて、100センチも無いからね。

 低めに仕立てられた薔薇ですら私の頭より高いし、垣根のように仕立てられているものに至っては、150センチくらいある。


 目隠しなんて気にしなくたって、普通にしているだけでも、完全に隠れてしまってるんだ。


 かくれんぼには、うってつけかもね。




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