第4話 お兄さま。




「……セシリア?そろそろ出発しましょうか?」


「はい、おとしゃま、おかしゃま」



 夫婦の会話が弾みに弾んで、いつ終わるのかと思っていたのだけど、ぽやーっと自分の世界に浸ってる間に、終了してたらしい。


 今回の魔力判定会は王都にある王城、大広間で行われる。

 定期的に国内の各地でも行われているんだけど、王城で行われる判定会が、一番規模が大きいんじゃないかな?

 魔力持ちは貴族に多くて、王都には地方の貴族の別邸がたくさんあるから。


 例に違わず私たちも今は王都在住なわけで、王城までは馬車に乗って移動となる。


 公爵家の馬車がすでに玄関前に準備されていた。すごい立派。

 思わず見惚れていると、馬車の影からこちらへ、誰かが走ってくるのが見える。



「やあ、セシリア!すっかりお姉さんになったね。今日は僕がエスコートさせてもらうよ!よろしくね」


「せぐーにいしゃま、よろしくおねがいしましゅ」



 視線を合わせるために少し屈むと、嬉しそうにふわりと微笑む。


 この人はガレット家5番目のセグシュ兄様です。

 私が6番目の末っ子なので、すぐ上の兄という事になる。


 ちなみに、成人したての15歳。


 父様と同じ燃えるような赤い髪と翠の瞳、面立ちは母様似で優しげな美丈夫、両親の良いとこ取りをしました!といったところかな。

 去年の誕生日に会ったきりなんだけど、あの時は男装の麗人のような…女性寄りの華やかさが強かったんだけど、随分かっこよくなったもんだ。

 体格も背も一気に成長して、日々鮮やかな印象になっていく気がする。



 馬車に乗るために、レディには手を…と言いたいところなんだけど、すみません、まだ幼児なんで手で支えようが段差が高すぎて登れないので、と思ったら、後ろから私の両脇に兄様の手が入る。

 高い高いの要領で馬車に乗せられるんだなーと思っ……!



「ぐえ」



 ふわりと花の香りとともに浮遊感があり…力一杯抱きしめられた。

 羽交い締めのような格好で。

 兄様やめてえええええ!苦しい!



「あぁもう!なにこの可愛い生物は!セシーはずっとこのままでいいよ!」


「やめっ!にしゃま!めーーー」



 良くないですってば!

 抱えたままくるくる高速回転とか!目が回るから!


 この上乗り物酔いとか、散々な事になりそうだから、やーめーてぇぇぇぇ。

 ……馬車移動って、かなり揺れるらしいし。


 そういえば辻の乗合馬車は前前世でむかし乗ったことあるけど、こういう貴族の馬車は乗ったことがないんだよなぁ。

 クッションが利いていて、なかなかの高級仕様だ、というのはよく聞くんだけどね。



「セグシュ、遊んでないでセシリアを解放してあげなさい」


「しっかりエスコートしてあげてね?セシリアの初めての王城だからね?」


「もちろんだよ!」



 ……結局、馬車の中でもずっと、満面の笑みを浮かべたセグシュ兄様に抱えられたままでした。

 父様母様の会話は話題が尽きることなく、バカップルよろしくずっとべったりだし。


 王城到着後、父様とは別行動になる。

 宰相、というお仕事があるらしい…というか、宰相なんですよ!


 騎士団の魔術師団の団長も兼任してるそうで、魔力測定会に参加する、王家の護衛として参加することになってるそうです。


 母様とも別行動。

「大聖女」なので、魔力測定会のスタッフとしての参加、という事になるらしい。

 まぁ、大聖女って言っても宗教的な存在では無いようで「光の属性を強く持っている」という事に対しての称号ようなものらしい。


 光の魔法は主に体に作用するものが多くてね、回復する力を促進するというのがメインになる。

 だから、3歳児が測定時に魔力を初めて意識して暴走させてしまったり、それによっての怪我を防ぐためのフォローをするために呼ばれるのだそうだ。


 魔力測定会って、本来ならばお菓子がいっぱいの「大規模なお茶会に親子で参加する」というものらしいんだけど、私は両親ともにお仕事で同席が難しい…ちょっと寂しいけどね。

 同じ会場には、いるんだけどね。



(まぁ実際のところ、大量の3歳児だけを単身で会場に乗り込ませたら、カオスでしかないだろうし……)



 そこで末のセグシュ兄様の出番なのですよ!

 エスコートと言ってくれてるけど、完全に保護者ですよね。


 ……お菓子が出た記憶はないけど前世にほんの三歳児健診に近いよね、これ。



 そんなこんなを頭の中で情報整理していると、徐々にまぶたが重くなってくる。


 セグシュ兄様は……いつも温かくて花の良い香りがする。

 兄様の膝の上で、肩口をぽんぽんと叩かれるのが心地良くて、意識が遠のいていく。



「母さん、セシー寝ちゃったよ」


「あらあら!可愛いわねぇ…」



 母様とセグシュ兄様の優しい声が耳に入った後に少しの浮遊感があって、座る姿勢を直されたのだろう。

 お姫様抱っこのような状況になってるんだと思う。

 寄りかかり支えられた胸から聞こえる兄様の心音に、私もぽかぽかしてきて完全に意識が途切れた。



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