第3話 父様と母様。




 私の上の兄弟達は、みんな成人済みだ。

 なので、それぞれの予定で動いているから、基本的に一緒に食事をとるのは、父様と母様の2人。

 たまに長期休暇などが重なると、賑やかになる。



「セシー、おはようございます。ご挨拶えらいわねぇ」

「おはよう、セシリア!今日も可愛いね」



 自分の席まで近づくと、メイドが幼児用に作られた椅子に座らせてくれる…んだけど、大抵はその道中で父様に捕獲されて、ほっぺをむにむにぐりぐりと、がっつり頬ずりされてからの食事となる。


 燃えるような赤髪で、翠の瞳のお父様。

 とても若々しくて美形なので目の保養となるのだけど、至近距離すぎて…


 向かい合って座り、こちらをにこにこと見つめている、淡い桜色のような銀髪で、青い瞳の母様も…これまた麗しく。


 自分の親とはいえ、一挙一動に見惚れてしまう。


 さらに、習ったばかりのテーブルマナーはうまくいかないし、ぷくぷくぷにぷにの手は、頭ではわかっているような動作をするにも一苦労で、食事が全く進んでくれない。

 これはもう、慣れていくしか……ないよね。


 正直この両親ってば、成人した子供が5人もいる夫婦には見えない。

 まだ20代前半と言ってもバレないと思うんだ。

 すごく若々しい。シワとかクスミとか、目のクマとかね!全くの無縁のように見える。



「セシリア、今日の魔力判定会でお友達ができると良いね」

「そうね!お友達を呼んでのお茶会とか楽しいわよ!」


「そうそう、お茶会と言えば、北の辺境伯が遂にね……」



 習いたてのテーブルマナーで食事を口に運ぶことに必死な私を横に、両親の話は流れていく。

 この夫婦はよく喋るから、この朝の会話を聞いてるだけで家に居ながらにして情報通になれる気がしてくる。



「……セシリアは無事オムツ卒業できたし、そろそろお呼ばれのお茶会参加もいいかもしれないね」

「そうねぇ、そろそろ王子様達のお披露目のお茶会があるそうですし、その日に合わせて準備していきましょうか」



 ……前世の記憶では「1歳になったら、トイレトレーニング」と育児書にはあったんだよなぁ。

 私は「1歳になれば、自然と出来るようになるから」と思っていたのだけど、我が子は頑張っても、完了したのは3歳ギリギリだった。


 義理母にもずいぶん嫌味を言われたし。

 子は子で「魔のイヤイヤ期」に突入してたから、全く言うこと聞かないし反抗的だしで…。

 どうしようもなくなって、実母に助けを求めても「あんたの躾が悪い」とバッサリだったし。


 あの頃は楽しいはずの育児が、地獄だったな。


 息子の嫁達が私のような苦労しないように、私が傷つける存在にならないようにと、孫のトイレトレーニングについて先に考えを聞いておこうと思って話を振ったら



「子供がその気になるまで、そのままで良いんですよ~」

「そんなことより、今しかできないことをいっぱい楽しみましょう」

「大丈夫ですよ!いずれは自分でも恥ずかしくなって、勝手に外れますよ」



 彼女らが孫の検診に行った時に貰ってきたという小冊子にも

「3歳を目標に外しましょう」

「それでも外れない子も中にはいるけど、5歳までには自然と外れます」と、あった。


 ……自分の子の育児は地獄だったけど、義理娘達がいっぱい関わらせてくれた孫の育児は、凄く楽しかった。


 義理娘達、良い子ばっかりだったなぁ。

 私には息子しかいなかったから『息子達のお嫁さん』という御縁で、関わらせてもらえた。

 とても良い娘達だった。



 ──突然視界を奪われるように浮かんだ記憶と感情に、ぐっと喉を詰まらせて、涙目になりかけてしまったのをスープごと飲み込むようにごまかした。


 ……今の私は「育児される立場」だ。


 今の「私のお母さん」が私の育児で辛くならないように、楽しめるように頑張ろう。



 話すがずれたが、私のオムツは本当につい最近、外れた。


 私の心情的には、オムツは速攻で外したかったのだけれど、部屋が広すぎてトイレまでが遠くて、どうしても無理だった。

 自分の部屋なのに、私では開けられない大きな扉もたくさんあるし。


 そのうえ歩幅の関係もあってね、尿意に気づいても、よちよち歩きではどうしても間に合わなくて、オムツ完全卒業はついこの間。


 こちらの世界にもオマルがあればいいのに…と何度思ったことか!


 おパンツになってからの、お尻周りの清々しさは格別だ!



 ──そうじゃなくて!


 今日は3歳児健診、もとい、3歳児魔力測定日。

 この検査で「魔力持ち」と判定されるとこの世界では、その後の人生が大きく変わる。


 平民の子であれば、5歳から国立の魔法学校へ通うことが決定するので、読み書きやマナー等の最低限の知識を得るために、教会へ通う。

 もしくは教会内の孤児院に引き取られての、勉強が始まる。


 貴族の場合は、読み書き等は家庭教師に教わっていくものだから、特に問題はないのだけどね。


 そして、その貴族の子だった場合は、詳しく得意な属性が調べられた上で、さらに一歩進んで魔法の行使を教わったりもする。



「まほう、たのしゅみ」



 おっと、考えが思わず口から出てしまったようだ。


 私のポツリ発言がしっかり聞こえてしまってたようで、お茶会の準備のお話からいつの間にやら夜会と噂まで飛んで行っていた会話が止まり、こちらに振り向いた。



「今度こそ君の出番だと良いね」

「あらあら。セシリアは貴方やお兄様たちと同じように火か風に好かれると思うわ」

「セシリアはお前に似てるから…もしかしたら光かもしれないぞ?」


「そうかしら?フィリーもセシリアと同じ髪色だけど、あの子は火だったわよ?」

「ほらほら拗ねないの、俺は1人くらい君と同じ光に好かれる子がいたら良いなってだけだよ、全員父親似ってのも…ね。一人くらい、魔法練習を君に押し付けたい」



 一般的には火、水、土、風といった属性がある。


 ……少し変わったところでは『派生』といわれる属性もあって、一般的な『属性を強化』して、氷や炎になったり『属性の複数持ち』が自分の属性を器用に組み合わせて使えるようになって派生した、樹や飛行があったと記憶している。



 その他に希少という意味で光、闇の属性がある。

 国中から「魔力持ち」を集めた魔法学校内ですら光か闇の属性持ちは数人程度であり、実用レベルとなると学年に一人いるかいないかというレベルなのだそうだ。


 ちなみに母は、その光属性の高位所持者であり、現在も「大聖女」と呼ばれている。


 転生指定先の「大量の魔力所持とその魔力に耐えうる身体」という意味ではやはり、この夫婦の子供で正解なのかもしれない。



「おかしゃまは、まほうは、おきらい?」


「あらあら…魔法は好きよ。闇と…私の持つ光は、他の魔法と少し使い方が違うから…火や風を教えるには少し難しいのよ」

「そうだね、それに同じ魔法を使える人から習えた方が、上達も早いんだ。セシリアの兄様も姉様も光持ちではなくてね」


「教えられる機会があれば、私は頑張るわよ?」



 母様は少し困った、申し訳なさそうな寂しげな笑顔を浮かべた。

 光持ちは少ないからね。

 遺伝、という方法ですら、なかなか受け継がれないようだ。



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