第2話 はじめまして。



 思い出したのは唐突だった。

 何かを閃いたかのように、私は転生をしたと気づいた。

 定められた通りに、転生したんだ。


 多少、記憶に欠けがあるようだが、いずれ思い出していくだろうと思われる。

 日々の生活でも、知らないはずなのに不思議と前から知っていたようなことがあったのは、ぽろぽろと転生前の記憶が戻りつつあったからのようだった。


 大きく背伸びをしながら、ふわっふわの広いベッドから体を起こして周囲を見渡す。

 さすがというべきか、子沢山で有名な公爵家の末っ子娘とはいえ、贅沢な部屋の作りだった。



「せしゃあ・あのん・ぎゃえっと…」



 ──噛みすぎでしょう…

 3歳じゃしょうがないかな?そう思いつつも、やっぱり納得がいかない。


 今の私の名前はセシリア・ハノン・ガレット

 公爵令嬢、凄いでしょう?と自慢したいところだけど、跡取りでもなんでもない。

 両親は結婚してからずっと、蜂蜜以上に甘い関係なおかげで子沢山。


 兄は3人、姉も2人いるが全員成人済みだし、後継者はその長男で決定済みである。

 婚約に関しても、全員問題なくクリアしているし、それぞれの婚約者とも仲がいいようで、結婚を心待ちにしているような状態。


 私は6人兄弟の末っ子なので、権力や地位なんて微妙どころか言葉にすらかすることもないし、それどころか「私って両親の老後の楽しみとしての孫の代わり的な愛玩用じゃないの?」とも思える、甘やかし放題な環境で育った。


 ちなみにこの国では一夫一妻である。

 この国で一夫多妻が許されているのは、王家だけなんだ。


 それでも三妃まで。

 王妃以外は側室、という扱いではなくて全員平等な扱いで三妃まで。

 それぞれ迎え入れるにも条件があって、二妃を迎え入れるには一妃との結婚後5年経過しても子が産まれる気配がない場合。

 三妃に至っては、二妃との成婚後2年経過しても一妃と二妃に…といった感じで。


 流石に、跡継ぎがいないとやばいもんね?という配慮からのものらしいけどね。




 *******




 さて、一気に流れ込んできた前世と、さらに昔の情報と、今現在の情報を整理しつつ気づいた。

 それはもう、昨日のおやつはなんだったか、唐突に思い出すような、そんな感覚で。

 私は『定めた通り』に転生したことに気づいた。


運命さだめ通り』じゃないよ『定めたさだめた通り』だよ。


 ……そう、これは自分で決めた事。

 ある目的のためにずっと転生を繰り返している、という事。


 まぁ、残念ながらそんな定めさだめ構築したつくった時点の私ですら、人より何かに優れているわけでもなかったし、ましてや何か崇高な使命を帯びている…わけでもないんだけどね。

 そして、誰もがびっくりするような、チートなスキルを持っているわけでもない。


 あえて言うならば、少し変わった部類の人間だった、と言うことかな?

 地球での大学にあたるような研究施設で研究に没頭して、寝食忘れて施設が自宅になったような人間だったという事は、思い出した。



(手、ちっちゃ!ぷにぷに!)



 前世だとすっかり忘れちゃってたんだよねぇ、この情報。

 今ならその原因も、漠然とだけど、なんとなく思い出してわかってきた。


 前世はこちらの世界から見たら、異世界、地球の日本というところで生を受けたからだった。

 異世界には魔法や精霊、ドラゴンなどのモンスターや魔物の存在がない、平和な世界だっ。た。

 魔法がない代わりに、科学が異常に発達していた。


『魔法がない』つまり異世界では、魔力行使や維持ができない。

 魔力とは魂に刻まれた素質、そして魂からの力である。

 記憶も魂に刻まれていくもので……。


 そう、転生のために魂にかけた、記憶復帰や転生条件の詳細な選別の魔法が発動しなかった。

 ただし発動こそしなかったが、魂にはしっかりと前世の記憶が…死の浄化によって消される事なく、記録されていた。


 まぁ、そもそもが異世界の科学技術というものに憧れて、次回の転生先に異世界地球を指定したのは私自身なのだけども。



(思っていた以上に、良い人生だったなぁ…)



 前世の死因は多分、寿命だろう。

 歴代の中では、一番幸せな旅立ち方だったと思う。

 それまでの私は、毒殺や呪殺などの暗殺ってやつですね……ロクな死に方をしていない。



 それにしても、と顔を顰めてみる。

 ……ま、幼児のぷくぷく顔では、顰めることすら難しいのだけども。


 今回は公爵令嬢か、行動に制約が多そうな環境だ。

 なんかもう既に、知らぬ間に婚約者とかいそうな勢いだよね。

 ただきっと、今後の転生先は貴族が基本になっていきそうな気はしてるんだ。


 転生条件に「通常より強度の魔力所持とその魔力を行使した時に耐えられる身体」というのが、一番の優先事項になっているのが原因だと思ってる。


 私が前回、異世界地球への転生で人生を謳歌している間に、こちらの世界では魔法使いはもとより、そもそもの選定基準である『魔力持ち』という人間が激減しているからだ。


 比較的、貴族という人種は血統管理が厳しくて、貴族間での計画的な婚姻が基本だった事から、魔力持ちの血が濃く残っているってだけで、それでも全体的な魔力持ちの出生率は下がってるようだった。



 前前世むかしは何処にでも、いくらでも、むしろ誰でも簡単な魔法なら使えたと、記憶してるんだけどなぁ。


 こういう状況で「人間である事」なんて条件はつけてないから、このままさらに魔力を育てていけば、来世はエルフか魔族にでも転生するのではないだろうか?


 ……今世では「魔力の強さが家を継ぐ判断基準に」という風潮も出始めているようだし。


 少しづつ現状の把握と、立ち位置の把握をしていかないと…と、毛布をかぶり直して転がったところで、部屋のドアが開いた。



「セシリア様、おはようございます」

「おはよう…」



 寝起きと、大量の情報整理中なのも手伝って、まだ頭がぼーっとしている。

 ドアから現れた私の専属メイドは、慣れた手つきで私の上体を起こし、早着替えのように寝巻きからインナーの白いワンピースへ着替えさせる。



「さぁさぁ、お着替えいたしましょうね!」

「はぁい」



 今日は大事な日だ。

 着替えが終わると、蒸しタオルを顔に当てられる。


 ……これが結構気持ち良くて、そのまま顔をごしごしと拭いて、毎度怒られる。

 本当は蒸しタオルと冷たいタオルとを順に顔に当てて、寝起きの浮腫みを取るものらしいが、子供には必要ないと思うんだ。



「今日はご予定が入っておりますので、可愛く仕上げましょうねぇ」



 気持ち楽しげな専属メイドの声とともに、タオルを顔に当てられたまま、わしわしと髪を整えられる。

 個人的には朝からプチエステ気分で「3歳児のくせに生意気な!」と思ってしまう。


 あ、ちなみに、幼児の寝汗って、すごいんだよね…

 寝てる時に、この小さな身体にある、大人と同じだけの汗腺を使って、発汗練習をしちゃうんだって!


 だから、朝起きると、オネショでもしたかのように汗でびっしょりということも、ままあったりする。

 そういう時は朝から「湯浴みしましょう!」と満面の笑みを称えた専属メイドに風呂に……。


 朝からある意味で大運動会だったりするわけだけど、今日は寝汗はそんなに酷くなかったようで、ささっと着替えて髪も整えてもらって、仕上げに淡い水色のオーバードレスに袖を通して完成。



「では、食堂へ参りましょうね」

「はぁい」



 本来なら、そのまま1人で行けば良いのだけど、3歳児にはドアを開けるのも無理な話なので、どうあがいても専属メイドと一緒の行動になる。

 豪華なお屋敷のドアは無駄に重くて大きくて、ドアノブの位置も無駄に高いからね…


 さて、食堂へのドアを開けてもらったら、まずはご挨拶。



「おとしゃま、おかしゃま、おはようございます」



 ぽてぽてと歩いて、いっちょまえなカーテシーを披露する。




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