6 ハイ・ベロシティ・デトネーション
自分は驚きを隠せず言葉にする。
「い、一撃で仕留めた」
全ては銃声と共に過ぎ去る、一瞬の出来事。
これで仕事は終わった。
そのはずだったのだが――――――――。
ゾンビは呻き声を上げながら、床を半回転しうつ伏せになると、産まれたばかりの牛や馬のように、手足を震えさせながら立ち上がる。
背をこちらに向けへ、辺りを見回した。
やはり目が利かないのか、首をやたら振る。
こちらへ振り向くと、捜し物が見つかったように、目を合わせた。
もう唖然とするしかない。
現実を直視し考察。
「頭を撃たれたのに、動くのか?」
「最近のゾンビは頭撃たれたって、死なねぇからな」
酒楽は危機的状況でも余裕を見せ、照準を下へズラし二回発砲。
ベレッタM八五はトリガーを引くたび、火花を散らしながらブローバックし、スライド部分から使用済みの
弾丸はゾンビの両足へ当たり、血が吹き出すが、当のゾンビはその攻撃を物ともしない。
酒楽取締官はゾンビへの不満をこぼす。
「少しは止まれよ?」
彼は銃をホルスターに戻し、銃とは反対のベルトのソケットから、小型の道具を取り出す。
手にしたのは、金属で出来たペンに見える。
通常のペンよりも一回り大きく、親指で押せるノックが有り、ボディには硝子のゲージが埋め込まれ、透明な液体が入っている。
酒楽がペン先をひねると、先端から円錐の針が飛び出た。
まるで、銀で作られた杭のように見える。
しかし、それはペンでも杭でもない、ペンの形をした注射器だ。
詳細に語るなら円錐の針をゾンビの"舌"へ差し込んだのだ。
酒楽取締官はノックを押して、中の液体を注入し、ゾンビを突き飛ばす。
突き放されたゾンビは、急に動かくなくなり立ち往生。
すでに脳の活動は停止している為、私的な考察だが、亡者は何が起きたのか確認するように鼻を鳴らす。
その後、激しく痙攣。
ゾンビは胸を押さえて苦しむ。
ピンク髪の男は、高みの見物とばかりに野次を飛ばす。
「よう! ゾンビの兄ちゃん。今のは『ニトログリセリン』だ。聖水よりも激薬だぜ?」
ゾンビは天へ向けて絶叫した。
今ゾンビの体内では、舌の粘液に溶け込んだニトログリセリンが、粘液から血中に取り込まれ、ニトログリセリンが水分で分解され硝酸となり、さらに変換されて一酸化窒素へ、
天秤の片側が下がれば反対側は上がるかのように、細胞のカルシウム濃度が低下することで、血管の筋肉が動線を広げた。
要は、"血行が良くなった"のだ。
その
それは人体で起きる刹那の出来事。
血液は餓鬼のように酸素を欲し、ゾンビに空気を吸わせろと、細胞が脳へ逆に指令を出すほどだ。
今、ソンビの構造は目まぐるしく化学式が書き換わり、一秒も待ってられないくらい、数千の
酸素により刺激を受けて、ゾンビの体内で停滞していた、細胞内に潜むミトコンドリアが生前と同じく活性化し、そのタンパク質の内幕に秘められた
だがゾンビの身体は、そのエネルギー供給に耐えられずミトコンドリアが活動すればするほど、細胞が自身を生かそうと
結果、不死と思われたゾンビは泥人形のようにもろくなった。
それはあくまで体内の話だ。
肉眼で確認できる表面上では、何が起きたか?
ゾンビの皮膚が膨らみ、血管が根っこのように浮き出た。
動機が激しくなったのか、風が吹きすさぶような荒い呼吸が聞こえる。
灰色だった肌は、ほのかに赤黒く変色し張りが出ると、腕や足の筋肉が盛り上がる。
まるで全体に防具を着けたような姿へ変わった。
落ち着きを取り戻したゾンビの目線が、天井からこちらに顔を向けると、目は真っ赤に染まり血の涙が頬を伝う。
明らかに先程までと状態が異なる。
目の前の怪物は大きく息を吸い込むと、こっちへ向けて雄叫びを上げた。
誰が見ても、これは危険だ。
経験豊富な酒楽取締官にすがる。
「しゅ、酒楽さん。ゾンビがパワーアップしました」
「言われなくても解ってる! ニトロの副産物だ」
そう、ニトロによる対抗策は、まさに諸刃の剣。
アルカナによる中毒症状で細胞は活動を止め、酸素をエネルギーに変換できなくなると、血流は過度に低下し、血が巡らなければ血管は萎縮する。
血が回らなければ臓器が全て損傷し、それ故に使用者はゾンビとなるのだ。
ゾンビの動きがおそいのは、異常なほどの低血圧からなる。
その狭まった血管を、ニトロの作用で広げ、再び血を巡らせるわけだが。
そうなれば、ゾンビは生前に近い活発さを取り戻し、動作は機敏になる。
加えて身体の温度が上昇して興奮状態となる為、野生動物よりも凶暴化。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます