エピローグ とあるサラリーマンの場合
「まただよ」
「駄洒落か」
ああ、明日には夏休みの二文字に終わりが告げられる。息子ももう六歳になる。来年からは小学生だ。本当なら晩夏のはずなのに、太陽はずいぶんと強く照っている。風速7メートル近いビル風も南風とあって効果は弱く、私たちの額にじわりと汗が浮かんでいた。
灰色のビルの谷間の、これまた灰色の道路。お義理のように立ち並ぶ街路樹は風に揺れ、葉っぱはガサガサと耳につく音を立てている。私たちはいつものように昼食を一食数百円のファミレスで済ませ、ガードレールから離れた方を歩きながら会社への帰り道を進んでいた。
その私たちに向かって、軽く笑った奴がいた。もう、この街には誰も気にする奴はいなくなっていた。いるとすれば、猿山の住人たちだけ。でもやっぱり妻子を背負っている身としては、万が一ってもんがある。だからこそ私は、こうしてガードレールから離れている。笑いたければ笑えばいい。目の前の現象がどう記録されるか、そんなのは既にわかっている。
もはやバスの運転手も、そのバスに乗っているサッカーボールを抱きかかえて高校生も、その高校生の保護者らしき婆さんも、いかにもな感じのオネエさんも、まったく気にしていない。お巡りさんさえもまったくのノーリアクションだ。これが七年間と言う時間の為せる業なのだろう、まったく時間は妙薬だ。
明日の地方新聞なり、ローカル天気予報なりには以下のように書かれるのだろう。そしてそれがほぼすべてなのだ。
黄色人種、金髪。年齢、七歳ぐらい。性別、男。方向、北北西。速度、8メートル。
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