第6話
いつもの私なら「いやいや、まだ若いんだからそんな事ないって」とか「まぁ、そうだよねぇ」とか言って笑っていただろう。
「……」
でも、今はとても笑えない。
『僕はさ、自分で選んで今の状況を作った。でも、この状況の中に昴を入れていなかったのは事実だよ』
数馬はどうやら最初からこうなる事は予測出来ていたようだ。ただ、その中に『私と……いや、私たちと協力して』という事は入れずに……。
『だって、まさか見えるようになるなんて思わなかったからし、それに……霊媒体質の人が二人もいるとも思わなかった。一人はすぐ分かったけど』
「……」
その一人とは多分、緑の事だろう。
でもなぜ、数馬が父さんではなく、私にとり憑いたのかという理由は、容易に想像が出来た。
「どうしてそんなにこだわるの?」
『僕は……普通に憧れているんだよ。それも死神じゃなくここにいるみんなみたいな』
死神の『普通』と私たちの『普通』は違うだろう。
「……」
『当然、母さんは僕を見ても気づかないだろうし、その事で傷つくかもしれない。でも、僕はそれ以上に普通でいたい……そう思ったんだ』
数馬曰く、長い事『死神の仕事』を続けていくと、色々な感覚がおかしくなるらしい。それは『人間』に対する感情や、自分自身の事などなど……色々。
『僕らの場合は、それが普通らしいんだけど、ほら僕、色々知ったから……』
「……」
世の中、知らなけばよかった……なんて事はたくさんあるだろう。しかし、数馬の場合は、自分で『知る』という事を選んだ。
『人生なんて選択の連続で、その事によって人を傷つけたり、自分が傷つく事もある。でも……』
昔、母さんがそんな事を言っていた。
「数馬はどうしても母さんに会いたくて……それで、逝きたいんだね。じゃあ、私からは何も言わない」
『え』
私が突然意見を変えたから、数馬も面食らっていた。
「それだけ覚悟が決まっているみたいだし、そんな人に対して強く言えるほど、私の意見が強いわけじゃない」
『……』
正直、ここまではっきりと「こうしたい!」と言える数馬が羨ましい。たとえ、周りを巻き込んででも貫きたいという気持ちがとても逞しく思える。
――それに、眩しくも見える。
「でも、これから何かする事があったら、ちゃんと言ってからしなさい。突然言われた方は戸惑うんだから」
でも、このやり取りすら私はきっと忘れてしまうだろう。だから、これはちょっとした仕返しだ。
『はははっ……ごめん』
数馬は乾いた笑い声を後、そう言った。どうやら、相当反省したようだ。
『まぁ、いつかは話さないといけなかった事だし!』
「……黙ったままにされなくて良かったよ。本当」
なんて言った私に対し、数馬は「そっ、そんな事ないよー」と言った姿は……狼狽えているように見えた。
「まぁ、何にしても後一枚ってところみたいだから……」
『あっ、やっぱり四枚集まったんだ』
「ええ。でも、いざここまで集まると……感慨深いモノを感じるわ」
『まぁ僕としては、緑さんとのもどかしい関係をどうにかした方がいいと思うけど……』
「……なんでそこで緑が出てくるのよ」
『えー、まだ気付いてないのぉ?』
「……何がよ」
『……マジ?』
数馬は「本当に分からない?」という表情を見せているが、私は本当に心当たりがない。
『はぁ……全く、もう。いいよ! 僕から緑さんに直接言うから! 黙っていたって何も始まらないんだから! もうっ!』
「えぇ……何を怒っているのよ」
よくは分からないが、なぜか怒っている数馬に促され、私はとりあえず勝幸伯父さんに電話をかけた。
『緑さんがまだいるか聞いて』
「わっ、分かった」
数馬に言われるがまま勝幸伯父さんに尋ねると……まだ帰っていなかったらしく、数馬にそう伝え、電話を代わると……何やら話をしている声が聞こえた。
「……」
でも、数馬がいなくなって数馬に関する記憶がなくなったら、今話している会話も……きっと忘れてしまうだろう。
なんて思ってしまったが、それを口に出すのは……野暮かと思い、私は何やら一生懸命話している数馬を見ていた。
「…………」
ただこの時、上着のポケットに五枚目の『御札』が入っていたのだが……実は私がその『御札』を見つけたのは、この日から五日後の事である。
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