第3話


 しかし、その『昴が自分の姉だという情報』だけでは意味がない。もっとたくさんの情報が必要だ。


「確かに、自分のお姉さんが誰という事だけ分かっても……」

『だから僕は、仕事の合間を縫って、資料を読み漁りました』


 一応、卒業した後も『学んだ場所』は出入りが可能だ。そして、その中には昴が行っている学校で言う『図書室』の様な場所も当然の様にある。


『ただ、そこには現場に出たことのない……いわゆる学生の時には閲覧出来ない資料もありました』


 僕が捜している情報も多分、そういった『資料』に書かれているのではないか……そんな思いは学生という時もずっと抱えていた。


 だから、卒業後は図書室の資料を読み漁ろうとずっと思っていたのだ。


「それは、やはり『あの世』に関する事でしょうか?」

『……勝幸さん、本当は分かっているのではないですか?』


「それは……」

『お気になさらないで下さい……。言わなくても分かりますから』


 そう、それはずっと不思議に思っていた『ほぼ例外なく』の『ほぼ』の部分にあたる事だ。


 だから、資料を漁ったり、その『ほぼ』に当たる人たちは『従来の流れで行ったという訳ではなく、自力であの世に行った』という事を知ることが出来た。


『そして、そのためには『御札』が必要不可欠だという事も知ったんです』


 それと同時にどうやらその『御札』が『通行料』の代わりになるという事も知る事も出来た。


『ただ、全てを知る事は出来ませんでした』

「なぜでしょう?」


『……その書かれているはずのページが、破かれていたんです』

「!!」


 その本には『御札』の詳しい記述の部分と入手の方法が書かれているはずだった。


 でも、誰かが破ったのか、それとも意図的に消したのか、その入手方法が書かれているはずのページは乱暴に破かれており、一ページ分キレイに飛んでいたのだ。


「飛んでいた……という事は、その部分の……例えば『御札』を手に入れた後の事も飛んでいたと?」

『いえ、その部分は次のページに書かれていました』


 そう、なぜかその部分は、不自然なほどにキレイに残っていた。


 多分、この部分を読めばあきらめるだろう……とでも思ったのだろうか。それとも必要ないと判断しての事だったのか……それは定かではない。


『ただ御札の入手方法も、詳しい事はなくなったページの部分に書かれていた様です』

「え、では昴に言った『御札』を手に入れるための方法は……」


『すみません。多分、僕たち死神の対になるような事だろう……そう僕が勝手に解釈して言いました』

「…………」


 一応、僕も考えなしで言った訳じゃない。きちんと、資料に書かれている記述を読んだ上での言葉だった。


「はぁ、つまり……上手くいったからよかったものの……という訳ですか」

『まぁ、そういう事になりますね』


「そういう事になりますね。じゃ、ありませんよ」

『そう……ですよね。すみません』


 でも、確かに勝幸さんの言うことも分かる。


 今回は運良く僕の仮説が上手くはまったからよかったものの……と言いたいのだろう。


 もちろん僕も考えなしで言った訳ではないけど、違った時の事を考えると、もっと時間がかかり、昴たちにもっと危険が及んでいた可能性も否定が出来ない。


 それを考えると、勝幸さんが怒るのも無理ない……と思う。


「それで、後『何枚』必要に?」

『あっ、合計で五枚必要になるので……後、二枚でしょうか』


「なぜ疑問系になるのかな?」

『それが……何となく、本当に何となくなのですがもうすぐ終わりに近づいている……そんな気がするのです』


 現在、僕が持っているのは『三枚』だ。それなのに、なぜか感覚的には『四枚』持っている様に感じる。


 しかし、今。昴はこの場にいない。


 もしかしたら、昴が『四枚目』にあたる『御札』を手に入れたのかも知れないと思っていた。僕は昴に取り憑いたから、少し……ほんの少しだけ昴の感覚が伝わる。


 だから、そんな事も何となく分かるのかも知れない。


「そうですか、じゃあもうすぐ終わり……」

『はい。あっ、僕がいた時の……正確には昴の目の前に現れた時からの記憶はなくなりますので、そこまで……』


 僕が「現れた時からの記憶はなくなる」と言った瞬間、聞き覚えのある「え……」という声が部屋に響いた。


 しかし、それは勝幸さんのモノではない。


「っ!」


 驚いた様な表情で、おもむろに振り返った勝幸さんの視線の先には……。


「すっ、昴」


 あまりにもタイミング悪く扉を開け、その場で立ち尽くしている『昴』の姿があった。

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