第2話


 でも、勝幸さんのリアクションも……分かると言えば、分かる……気もするが、僕としては……そこまで驚くほどの事でもない。


『……何もそこまで驚かなくてもよろしいのでは?』


 思わずそう言いたくなってしまう。なぜなら、この話は僕たちが結構早い段階で教えられる事だからである。


「いっ、いやぁ……それはさすがに驚くかと」

『そうですか』


 ちなみに、僕はこの話を初めて人にした。


 だから、僕にとっては『普通』とか『当たり前』だと思っている事も、多分……勝幸さんたちにとっては違うのだろう……と感じた。


 でもまぁ、それはこれだけリアクションの違いがあれば、さすがに分かる。


「でも、一体あなたたちはどうやって生まれるのでしょう」

『それは、僕もよくは知りません』


 僕の言葉に勝幸さんは「えっ」と驚いていたが、さすがの僕も実際の現場を見た事はない。


『僕が教えるような立場になれば、分かるかも知れませんが』


 まだまだ僕にも分からない事はたくさんある。


 ただ、分かっていることは僕たちの様な『魂』はある日突然、ある場所で『死神』として存在が生まれる……とでも言えばいいだろうか。


 そして、時期は分からないが、その存在が生まれるのは年に二回ほどあり、そこで生まれた『人』として人たちは『死神としての教育』を受けるのだ。


『いわば学校みたいなモノですね』

「なっ、なるほど」


 もっと分かりやすい表現の仕方をすれば生まれた時から『寮付きの学校』に住んでいる……という感じだろうか。


『ただ、全員が全員生まれは日本ではなさそうですね』

「……?」


 勝幸さんの表情は、僕の言葉に「どうして、それが分かるの?」と言いたそうである。


『……教師役の人が話しているのを偶然聞きました』

「そっか」


 その『死神』の元々システムの関係か、配属される『死神』は出生地が配属される場所と同じでなければならないらしい。


 だからなのか、大体の人は配属されてから自分の生まれるはずだった土地を知る……なんて事も多い様だ。


 そして、生まれてから数えて『十五』を迎えた年に自動的に『卒業』という形になり、僕たち『死神』は各々様々な世界に配属される。


『卒業する時、僕は初めて教師役の人から生前、決まっていた名前を聞かされたんです』

「……」


『ただ、僕の様に生前、名前が決まっている……という人は本当に珍しいらしいです』


 僕の様に明確に決まっている……という人は本当に珍しいらしいが、人によっては『候補の名前』がある人は場合は、その候補の中から選ぶ。


 ただ、そうじゃない人たちは自分たちで自分の名前を決める事になる。


「でも、それじゃあ名前が被ってしまう可能性もあると思いますが……」

『そうですね、実際。配属先が一緒の人たちは被らないようにお互いが譲ったり譲らなかったりと大変だったようです』


 思い返してみると、同期の人たちがやっていたその姿は……もう『名前のドラフト会議』とでも言っていいほどの白熱ぶりだった。


『そうして、卒業した僕たちは働き始めます』

「それは……いつまで?」


 この世界で生きている人たちは『いつ仕事を辞める』とか『どの職業に就く』とか自分自身で決める事が出来る。


 でも、僕たちにその選択肢なんてない。それは『辞めるタイミング』も僕たちに決める権利はない。


『……六十年です』

「明確に決まっているんだね」


 そう、勝幸さんの言うとおり、明確に決まっている。


『ええ。そして、引退して生まれたばかりの子供たちの学校の様な場所で五年働いたら、ようやく一般的に『あの世』と呼ばれている場所に行きます』

「みんな……というか、全員?」


『はい、全員です』


 僕はそう言って縦に頷いた。


「そっか、例外なく?」

『……はい』


 勝幸さんはそう言って、下を向いてしまった。


 しかし、勝幸さんがなんと思おうとこれが僕たち『死神の人生』とも呼べる一連の流れである。


 その人生には、ほとんど『例外』なんて存在しない。


『今、例外なくと言いましたけど、正確にはほとんどは……ですけど』


 ――そう例外なんてない、ほとんどは。


「でも、ほとんど『例外なく』その人生を送るのだとしたら、昴が必死に集めている『御札』は一体……?」


 勝幸さんは、僕が言われるだろうと思っていた疑問を僕に問いかけた。


『……僕はその例外が気になっていたんです』

「そういえば、さっき『ほとんど』って」


『ええ、そこです。それに、僕は死神として生まれて、自分で考えられるようになってからずっと考えていました。死神とは……僕の存在はなんだろう……って』


 しかも、僕は珍しく『名前』が決まっていた。


 そういう『珍しい状況』もあってか、さらに自分自身の『死神』という『存在』が気になり、よく調べていたのだ。


 そして、卒業が近づき、名前がなく、自分たちで考えていた同期たちを尻目に、僕は『生まれるはずだった世界』に……いや、その人たちに興味を持った。


『そうして、仕事をしながら情報を集めて回って知ったんです。昴の事を』


 卒業後、配属される『死神』は出生地が配属される場所と同じでなければならなかった。


 でも、そのお蔭で僕は比較的早い段階で『昴』つまり、自分の姉に当たる人物の情報を手に入れる事が出来たのだ。

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