伍枚目 過去の邂逅

第1話


 正直なところ「はめられた……」とは思っていても、ここは勝幸さんと向き合って話をしなければならないのだろう。


「君は何が目的なんでしょうか?」

『……え?』


 勝幸さんのこの言葉に、僕は違和感を感じた。


 ついさっき勝幸さんは「僕が誰にも言っていない事がある」と言っていた。だから、僕は「この人は、その言っていない事を知っている」と思っていたのだ。


 しかし、なぜこんな『目的』なんて言い方をするのか……。


 僕はこう言われた瞬間、最初は「試されているのか?」なんて思ってしまったくらいだ。


 でも、それと同時に「もしかして、勝幸さんは『何か隠している』という事は雰囲気で分かるものの、その『何か』という部分は分かっていないのではないか」とも思っていた。


「…………」


 そして、勝幸さんの反応を見た瞬間。どうやら僕の考えた後者の方が正しいという事に気が付いた。


『はぁ、勝幸さん。あなたは本当に……分かりにくい人ですね。雰囲気だけで僕はカマをかけられたというわけですか』

「……ごめんなさい、確かに『何か隠している』とは思っていたんですが」


『肝心の『何か』は分かっていなかった……と』

「……はい」


 勝幸さん自身が『不思議な雰囲気をまとっている』という事や、さっきまでの『表情と雰囲気の差』により、僕は勝幸さんに「言わされた」という事なのだろう。


『はぁ』

「……」


 いきなり雰囲気が鋭くなったから、僕は思わず身構えてしまったが……それは知らなかったからこそ……という事か。


 ――本当に食えない人だ。


『分かりました。でも、それを教える前に……』

「前に?」


『そもそも『死神』という存在を教えないと、僕の目的は分からないと思います』

「……」


 ここまできたら話さざるおえない。


 でも、下手に隠したり説明を省いたりすると、かえって勝幸さんを混乱させ、下手な誤解を与えかねない。


 それはそれで嫌である。


『まず、僕たち死神はそもそも死を誘ったり、人に死ぬ気を起こされたりするのが、そもそもの仕事……なんです』

「……」


 だから、ずっと説明してきた事はむしろ逆だったのだ。


『正直なところを言うと、昴や緑さんが危険な目に遭ったとしても、僕は助けにいけないんです』

「でも、君は直接手を下した事はない。それに、もし二人に何かあればサポートもしている」


『だから、僕は悪いヤツじゃないと?』

「それは……」


 勝幸さんが口ごもったのも分かる。


 もし、本当にいいヤツなら、そもそもそういう状況には遭わせない。いや、それ以上にそんな危ない案件には関わらせないはずだ。


「でも、君は御札がないと……と最初に言ったのではありませんか?」

『それが……僕たちのやり方ですから』


「??」

『気がついていないようですからあえて言いますが、僕たち死神はいかに相手を自分の土俵にのせるか……というのが大事なんです』


 要するに、僕たち『死神』は相手の不安をあおる事によって自分の思うように行動させる。


 あまりこういう言い方はしたくないが、詐欺などでよく使用される手だと思う。


『まぁ、今回は完全に勝幸さんの雰囲気にのまれてしまいましたが』


 そもそも僕はあまりこういう事は好きではない。こんな……人を騙すやり方なんて……。


「でも、君は……」

『他にも仕事はあります。さまよっている魂を導く……なんて事もしますが……』


 ただそれは本当にたまに……で、そもそも、そんな事を進んでやる物好きなヤツなんて、僕の他では……あまり聞かない。


 ――でもまぁ、しておいて損はない。


 それは……簡単に言ってしまえば、本来担当しているヤツらに『借し』が出来る。もっと言ってしまえば『借し』を作ってどうこう……って、いうくらい仲が悪い。


『そもそも、僕たちがどっちつかずな事をするのが気に食わないらしいです。天使っていうヤツは』

「…………」


 でもまぁ、僕たちにだって言い分は当然ある。だから結局、押し問答になってしまい。長年『天使たち』とは犬猿の仲だ。


「それらも全部含め、最初からそんな記憶……というか、そもそも君たちは一体?」

『…………』


 やはりそう来てしまうか……いや、自分で最初から「そもそも死神は……」なんて言っていたのだから、どのみちしなくてはならない話である。


『そうでしたね』


 ――僕がただ、したくないだけで。


『僕たち死神は……元々、この世に生まれてくるはずだった人間が、死神になっているんです』

「……!!」


 一瞬、本当の事を言わないでおこうか迷った。だけど、ここまできて……もう、ごまかしはしたくなかった。


「…………」


 ただ、勝幸さんは驚き過ぎて固まってしまっていたけど……。

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