第2話


「ふぅ……」


 とりあえず朝『おかゆ』を食べた後、薬を飲んだ後もう一度寝たのだが……目が覚めたら……。


「マジか……」


 窓に映った外の景色は茜色の夕焼けになっていた。


「はぁ……」


 そんな光景を見てしまうと、自然とため息が出てしまう。


 いや、風邪を引いている身だから『寝る』つまり『風邪を治す』という事は大事な事ではある。ただ「何もせずにずっと寝ていた」という事実が……どうしても俺に脱力感を与えてくるのだ。


「…………」


 しかもそういう時に限って偶然、聞こえたカラスの鳴き声がまさに「今が夕方だよ」とでも言っているかのように聞こえてしまう。


「でもまぁ……」


 朝食の後に薬を飲んで今まで寝ていたお蔭か、今は随分と調子がいい。


 やはり昨日、池に落ちて風邪っぽい症状が出てすぐに勝幸さんのところに行ったのは正解だった様だ。


 ――お蔭ですぐに薬をもらう事が出来た。


 実は朝、早く起きて熱を測った際、熱自体は下がっていた。しかし、まだ熱っぽかったり頭が痛かったりした事もあり、大事をとって休んだのだ。


 でも、この調子なら明日は学校に行っても問題なさそうだ。


「…………」


 ただ、夢を見ることもなく爆睡した上にこの時間。


「……」


 今、起きて何かを食べたとしても、正直、微妙なところだ。


「……はぁ」


 俺はとりあえず机に置いておいた飲み物を一口飲み、小さくため息をついた。


「…………」


 もう学校は……終わった頃だろうか。


 ふと壁にかかっている時計を見上げてそう思った。もしそうだとすれば、多少身構えておかなければならない。


 なぜなら俺は今日、学校を休んだ。それはつまり、今日『学校で配布したプリント類を誰かが届けに来る』という事を意味しているからである。


 しかも、なぜか来るのはクラスメイトだけじゃなく『お見舞い』と表して違う学年の人まで来る。


 普通であれば『身構える』なんて事をしなくてもいいはずだ。それに『お見舞い』なんてしてくれるだけでありがたいし、むしろ気が引けてしまうほどだ。


 ――無論、これは決して『自慢話』なんかじゃない。ものっすごく迷惑だった……という話である。


「…………」


 そう、あれは小学校に入学したばかりの頃の話だ。


 家で母親に看病され、寝ていた俺の元に当時のクラスメイトが現れた……まではよかったのだが、その時来た人数が、クラス全員だったそうだ。


 さすがに母親も困り、しかもその話し声がうるさかった……なんて話も後日聞く羽目になった。


 俺だけに迷惑がかかるならまだしも、周辺のご近所さんにまで迷惑をかけるのは……さすがによくない。


 中学の頃は、大型の休み以外で風邪をひいた事はなかったし、自分自身でもかなり気を遣っていた。


「…………」


 さすがに高校生になったから多少は周りや俺の迷惑も考えてくれるのでは……と、思ってはいるが……ここはあまり淡い期待はすべきではないだろう。


 でも、勝手に期待して勝手に裏切られたような気持ちは……あまりなりたくはない。


「ん?」


 そうこうしている内に、家のチャイムが鳴り響いた。


「……」


 さて、どうしようか……。


 ここで『居留守』を使うというのも一つの手ではある……が、せっかく来てくれた人に対してそれは失礼に当たってしまう。


「……仕方ない」


 そう俺は呟き、とりあえず……おそるおそる玄関にあるドアスコープから外の様子を確認した。


 でも、ドアの外から話し声は聞こえないからさすがにクラス全員という事はなさそうだ。


 ただ俺としては相手を見てから判断する……なんて事はあまりしたくないが、さすがに確認しておいた方がいいだろう。


「……ん? すっ、昴?」


 スコープ越しに見えたのは「もしかして、寝ているかな?」とでも言いたそうな表情で様子を窺っている昴の姿だった。


「……」


 今までなぜ思いつきもしなかったのだろう……と、その時俺は思った。


 そういえば俺と昴の家は近所だ。頼むのであれば当然近所に住んでいる人間に頼んだ方が手っ取り早い。


 しかし、風邪で休んだことのない中学の時はともかく、どうして小学生の頃はあんな大騒ぎになってしまったのだろうか。


 確かに、昴とはクラスメイトではなかったが、近所に住んでいる昴に頼めば……なんて一瞬考えた。


「……と」


 ただ、そんな事をいまさら考えてもしょうがいない。


 それよりも、玄関を開けないと、昴は「寝ているし、起こしちゃ悪いから……」と荷物をドアノブとかに置いて帰って……いや、昴の事だから時間を改めて来るか、姉さんに渡そうと勝幸さんのところに行く可能性も十二分に考えられる。


「…………」


 なんて声をかけるべきだろうか……。いや、ここはあえて「チャイムが鳴ったから……」という事にしてあえて何も言わずに開けよう……とか色々頭で考え、俺はドアをゆっくりと開けた。

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