第2話


 この学校では一限目、二限目の後は大抵いつも普通の休み時間とは違い、少し長めの『休憩』が入る。大抵の生徒は外に行く事が多いが……俺はそんな事はしない。


「…………」


 もちろん、俺の様に外に行かない生徒もいるが……なぜか俺がいる教室はいつも静かだ。


 まぁ「なぜか」なんて言ったが、実際のところは何となく『理由』は分かっている。


「…………」


 それは、俺を影で見ている人間が多いからだ。しかも、男も女も関係なしである。


「はぁ」


 ただなぜか、特に声をかけるわけでもなく、影から黙ってみている。


 うるさいよりは全然いいが、ここまで静かだとかえって不気味に感じてしまう。しかし、コレもこの教室では『普通』に入ってしまうのだから、怖い話だ。


 決してそれに慣れた……というワケではない。でも、わざわざ自分から何かをしたいわけでもない。


「…………」


 こんな不毛な時間を過ごすくらいなら昴と少しでも話をしたいところだが、せっかく昴が俺の為に気を遣ってくれているのにそれを無駄にするわけにはいかない。


 あの夏休み以降、昴は『数馬』からの助言を受け、御札を集めている。


 そもそも、俺と昴が知り合ったのも勝幸さんと知り合ったのも俺の『体質』が関係しているのだが……。


「ん?」


 突然、んいやら大きな声が外から聞こえてきた。


「えーっ! それ本当?」

「本当だって! 実際に見たって子がいるんだよ?」


「えー? でも、幽霊なんて本当にいるのかな?」

「絶対にいるって!」


 珍しい……。


 コレが夏であれば季節柄、そういった番組がこぞって放送されるのだが……今はどちらかという秋……それも、もうすぐ冬になろうというタイミングだ。


『なんで今頃、幽霊の話が出てくるんだろうね?』

「……」


『ん?』

「……いきなり来るな。さすがに驚く」


『とか言って、全然驚いているように見えないけど』

「…………」


 なんていいながら、少しふくれたような表情を見せ、俺の隣にいたのは『死神の数馬』だった。


「なんで数馬がここにいる、昴はどうした」

『昴は先生に用事があるからいない』


「別に一緒に言っても問題ないだろ、どうせ普通の人間には見えないんだろ」

『えー、だって僕がいると邪魔だって言われるから』


「……どうせそんな事を言われるような事をしたんだろ」

『えー、ひどいなぁ。そんな事していないって』


 まさか『死神』がこんな可愛らしい容姿だと思っている人は、そういないだろう。


 それこそ以前、昴の言っていたような『大鎌を持っている』とか『フードを被っている』とかそういう事を思う人はいるとは思うが……。


 いや、それ以上に『死神』を見た事のある人が果たしているだろうか。ちなみに俺は、見たことがなかった。


「……で、用件はなんだ」

『ん?』


「とぼけるな、いくら昴が職員室に用事があったとしても、いつもは俺のところに来ないだろ」

『あー』


 そう、数馬が俺のところに来るのは『コレ』が初めてだ。だからこそ「何か理由がある」と思ってしまう。


『あはは、やっぱりバレたか』

「さすがに気づくぞ」


『あー、この間の……男の子なんだけど』

「男の子……ああ、昴を事故に遭わせようとした」


 俺はこの間、昴は交通事故に遭いそうになった事を思い出した。


 しかし、それは偶然ではない。あれは意図的に……故意に遭わせようとされたモノだった。


『うん、あの後……御札。手に入ったって』

「……そうか」


 昴は霊の男の子に突き飛ばされた際に、軽い傷は負ったモノの、運が良いことに事故には遭わずに済んだ。


「……」


 端から見ていると、俺はただ独り言を言っているだけの奇妙な人間に見えるだろう。


 でも、俺からすればそんな他人の視線なんて気にしていない。


 それよりも、今は『御札が手に入った』という事実だけ分かっただけでよかった。


『この調子でいけば二学期中に集め終わりそうだね』

「そうでないと困る」


『……なんで?』

「こんな奇妙なモノが見える世界から早く解放してやりたいからな」


 そう、昴はあの夏休みで『死神に取り憑かれる』だけでなく『幽霊が見える』様になってしまった。


『いや、緑さん。確かに御札を集めれば僕からは解放されるけど……』

「分かっている。集めたところで見えたままになる可能性の方が高い……って事くらいな」


 でも、俺はそういった存在がいるという事は分かっていて欲しいとは思っていても、見えて欲しいとまでは思わない。


 それは、俺がそういったヤツらを『引きつけてしまう体質』が問題だ。


 俺はコレによって今までたくさん苦労してしてきた。


「だが、俺は……昴には『普通』に生活を送って欲しいだけだ」

『……そっか』


 そこはどうしても譲れない。たとえ昴に嫌われたとしても、昴には普通に幸せになって欲しいと切に思う。


『じゃあ、あの幽霊の話をしているお嬢さんたちに一度話を聞いてみる必要があるね』

「……なぜだ?」


『いや、なんでって……もしかしたら御札に関係があるかも知れないからね』

「…………」


 正直、面倒くさい……と思う。


 大抵、俺が話しかけると女子は騒いでしまうか萎縮する。俺は特に気にしていないのに……。


『まぁまぁ、とりあえず話を聞いてみようよ。それが昴の為にもなるんだし!』

「…………」


 そう言われてしまうと、協力せざる負えない。それくらい俺は昴には世話になりっぱなしだ。


 そう、最初に出会って今までずっと……。

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