第2話
『――でもさ』
「何」
『別に高校まで一緒じゃなくても良かったんじゃない?』
「私だって、高校は別々になると思っていたわよ」
『でも、実際はそうじゃなかった……と』
「……私も入試会場でバッタリ会って知ったのよ」
そう、本当は緑と同じ高校に進むつもりなんてサラッサラなかったのだ。
「そもそも緑の成績じゃ、私と同じ高校に進むなんて無理だと思っていたのよ」
元々、緑と私の成績は結構な差があった。
でも、緑が私の成績を珍しく聞いてきたのは中学二年の夏休みに入る前で……しかも、聞かれたのはその一回きりだった。
もちろん、私から逆に聞くなんて事もしなかったけど……。
『緑さん、頑張ったんだねぇ』
「まぁ、頑張ってはいたみたいよ」
『でも、意外だなぁ』
「何が?」
『緑さんが勉強出来ないなんて。本来ならそういう人ってイケメンで頭が良くて運動が出来て……みたいなパーフェクト超人って感じがお決まりなのかと思っていたよ』
「……あんたがどんな想像をしようと勝手だけど、別に勉強が出来ないってほどお馬鹿って訳じゃないし、運動は結構出来るのよ。普段は目立つのを嫌って適当にしているけど」
本人的には体育祭とかマラソン大会、球技大会なども適当に流したいところらしいが、大抵こういった行事は成績が絡んでくる。
だから、かなり本気で取り組んでいるようだ。
『ただ……本人は目立つの嫌っていても』
「まっ、まぁ勝手に目立っちゃうんだけどね」
でも、それは学校行事だけではなく、普段の学校生活で目立ちまくっているのだから仕方がない。
「それに、霊媒体質っていうのも全然『普通』じゃないわよ」
『まぁねー』
「何にしても、この間の件でやっと一枚」
『まだまだ先は長いね』
そう、この間の『ヒマワリ畑』の一件で私は『御札』を一枚手に入れた。そして、私はこの『御札』を集めなくてはいけない。
「……」
本来であれば、彼らの姿は見えない。
しかし、私の場合……その時の記憶が曖昧なのだが、どうやら私はあの夏祭りで起きた『ひったくりの犯人』に追突され、池に落ちてしまった。
その時の衝撃のせいか、霊媒体質にはならなかったモノの……死神や幽霊などを視覚出来る様になってしまったのだ。
――だからこそ、この『御札』が必要なのだ。
数馬曰く、この『御札』を集める事によって、私は死神である数馬から解放されるらしい……。
しかし、分かっているのは『それだけ』で他に詳しい事は分からず、とりあえず私はその『御札』を集めるために幽霊たちの『願い』や『頼み』を聞きいている。
それにより『御札』が集まるのだ。
「はぁ」
私は窓の枠に腕をつき、ため息をつきながら下を向き、軽く目を閉じ、伸びをした――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて……」
ホームルームも無事終わり、私は「ふぅ」と一息ついた後、カバンに教科書をつめた。
『おろ? 今日はないの?』
そんな私に数馬は不思議そうな表情でそう尋ねた。
「なにが?」
『バイトだよ。ア・ル・バ・イ・ト』
「ああ、今日は休み」
『へぇ、ちゃんとお休みがあるんだね』
「あのね……。そこら辺はちゃんとしているわよ」
『ふーん、そうなんだ』
なんて言いながら机の上に可愛らしくチョコンと座っている。
「……」
どうやら数馬は私の準備が出来るまで待つつもりのようだ。
普通であれば机に座っている彼の姿はかなり目立つはずだが、彼は普通の人間には見えない。
『……』
「はぁ」
しかし、人に見られながら……というのは何をするにしてもやりにくいモノだ。
「……おい」
そんなやりづらい雰囲気の中、突然私の頭上から何やら声が聞こえてきた。
「ん?」
『おっ?』
「……」
顔を上げると、そこにいたのは……。
「えっ、緑?」
すでに帰る準備を終え、カバンを片手に持っている緑の姿があった。
「なっ、なんで……」
しかし、私が校内で緑を避けているのは本人も知るところのはず……。
「……帰るぞ」
「えっ」
緑の言葉に私は一瞬で我に返り、急いでカバンに教科書を詰め込んだ。
「…………」
そんな私たちの姿をクラスの女子だけでなく、男子たちまでもが羨ましそうな視線で見ている。
「行くぞ」
「えっ、ちょっ」
緑もそんな視線に気がついていたのか、教科書を詰め込み過ぎてしまいチャックの閉まらないカバンにあたふたしている私を置いて先に行ってしまう。
「まっ、待って」
そんな緑を必死に追いかけようとしていると……。
『めっずらしいねぇ』
数馬は先に教室から出て行こうとしている緑に対し、いきなりそう切り込んだ。
「……何がだ」
『いや? 一緒に帰りたいなら別に教室まで来なくても良かったんじゃないかなぁって思っただけだよ』
「……」
『昴が心配だった?』
無言のまま立ち止まった緑に対し、数馬はさらにたたみかけた。
「ごっ、ごめん。お待たせ」
「……うるさい」
「えっ? 私、何かした?」
「あっ、いや。いっ、今のは……昴に言ったんじゃなくて」
『僕に言ったんだよ』
そう言って数馬は私に笑って見せた。
「えっ、それってどういう事?」
「なんでもない。いいから早く帰るぞ」
「あっ、うん」
なぜか少し怒っている緑に違和感を覚えながらも、私は先を行く緑の後をついて行った。
『素直じゃないなぁ』
そして、私にも緑にも聞こえない声でそう呟き、数馬はなぜか少し笑いながら私たちにトコトコとついてきた。
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