第3話
秋に差しかかり、ここ最近。若干日が傾くのが早くなっているように感じる今日この頃――。
「……」
「……」
『……』
日が傾くのが早くなっているという事は、それだけ『影』が伸びる。
『ねぇ』
「……」
「……」
しかし、そんな長い『影』もここには二つしかない。
「……」
「……」
一つは『私』で、もう一つは『緑』だ。ただ、数馬の『影』はない。それは……まぁ、数馬が『死神』なのだから当然だろう。
『おーい、僕の声。聞こえているんでしょ?』
「なんだ」
緑は、数馬の声に「鬱陶しい」とでも言いたそうな表情を見せながら、数馬の方を振り返った。
『いや、なんだじゃないよ! なんで無言なの? もうちょっと会話くらいすればいいじゃん! これじゃあ一人で帰っている時と変わらないじゃんか!』
数馬はその場で地団駄を踏みながら、私たちに問いかけた。
『昴も感じないの?』
「えっ!?」
突然そう言われても、回答に困る。
しかし、今の状況は……確かに数馬の言うとおりだ。今の状況は、確かに私一人で帰っているのとあまり変わりない。
「……えと」
「何? 言いたい事があるならちゃんと……」
『ちょっとちょっと、女の子に対してそんな言い方はないって』
「……」
「あっ、えっとね。なんでこんな道を通るんだろうと思って」
一触即発とでも言えそうな……そんな雰囲気が数馬と緑の間に流れている……そう感じた私は、すぐに緑に尋ねた。
「……」
『ん? なんでこんな道?』
数馬は不思議そうな表情で首をかしげているが、私はこの道に心当たりがある。
「うっ、うん。だってこの道……」
「最近、事故が多発している公園に続く道だろ」
緑の言葉に私は無言で頷いた。
「だからこそだ」
「え?」
「ここ最近、その公園で多発している事故は全て『交通事故』だ」
『そっ、そうなの?』
「えっ、ええ。確かニュースではそう言っていたけど……それが?」
普通に聞いているだけではなぜ今、私たちがそんな危ない道をわざわざ通っているのか……という『理由』には聞こえない。
「実は、その交通事故に巻き込まれ、怪我を負った人が勝幸さんのところの診療所に来たらしい」
「それは……琴葉さんから聞いたの?」
『それって、患者個人のプライバシーを完全に無視しているよね』
「コラッ」
『いやだってさ』
「まぁ、数馬の言い分も分かる。だが、コレは勝幸さんや姉さんからの……ではなく、患者本人からの『願い』というか『頼み』だな」
「頼み?」
「ああ」
『……えっ、どういう事?』
数馬も困惑していたからなのか思わず緑にそう聞いていたが、私も数馬と同じ気持ちだ。
「実は、俺。学校帰りに姉さんに診療所に寄れって言われた。しかも、電話で」
緑自身、最初は「なぜ?」と思ったらしい。
しかし、いつも忙しい琴葉さんがわざわざ電話をかけてきた……という事に『何か意味』がある様に感じた緑は、学校帰りに診療所に寄った様だ。
「そして、そこで勝幸さんと姉さんからその『患者』さんの話を聞いた」
「患者さんの話って……一体?」
『??』
「……事故に遭う前、一緒に帰っていた友達が『奇妙な事』を言った……と」
『奇妙な事?』
「ああ」
「えと……それって?」
私がそう尋ねると……。
「……」
「緑?」
『緑さん?』
なぜか緑はチラッ……と、隣にある『公園』へと視線を向けた。
「なんでも、公園で『犬の鳴き声』がしたらしい」
私と数馬も緑が見ている『公園』へと視線を向けたが……。
『なっ、何も聞こえないよ?』
「えっ、ええ」
しかし、その『公園』からは『犬の鳴き声』どころか、人の……子供の声すら聞こえない。私の記憶が正しければ、この公園はもっと活気に溢れていたはずだ。
それこそ、今の時間帯は小学校帰りの子供たちが仲良く遊んでいてもいいだろう。
「……」
でも、今は最近増えている『交通事故』の影響か人っ子一人いない。
『公園も人がいないと寂しいね』
「そうね……」
「……」
そう、本当に公園は閑散としていて……その光景はまさしく数馬の言うとおり『寂しい』の一言だ。
『でもさ、その患者さんの言っている犬の鳴き声って、捨て犬とか野良犬……とかじゃないの?』
数馬は少し投げやりに緑に尋ねた。
「……それは俺も考えた。だが、勝幸さん曰く『タイミングが良すぎる』らしい」
「タイミングが良すぎる?」
「ああ、勝幸さんがその人から聞いた話だと、その犬の鳴き声は『たった一度だけ』だったらしい」
「……」
『……』
「俺は犬を飼った事がないが、普通犬が鳴く場合。何回か連続して鳴く様らしいが……」
『それが一回しかなかった……』
「ああ。だから、俺はその『犬』が患者に見えなかった事も考えて……その『犬』は『霊』なのではないかと思っている」
「……」
『なるほどね。それで昴も一緒に来て欲しかった……と』
「……」
数馬が断言するようにそう言ったが、緑は数馬の声が聞こえていたにも関わらず、あえてそのまま聞き流した。
しかし、緑の言うとおりだとすると、本当にありがたい話だ。上手くいけば『御札』が手に入るかも知れない。
「緑」
「……なんだ」
「ありがとう」
「……あんまり無理するなよ」
緑は私の方を見ることなくそう言ったが、その言葉には『優しさ』が感じられた。
『はぁ、甘酸っぱいなぁ』
「数馬!」
「……」
『ええ、いいじゃん。仲がいいことは良きことかなぁ……って事でさ』
「うるさい」
『照れない照れない』
「鬱陶しい」
しかし、数馬は鬱陶しがっている緑に対し、さらにちょっかいをかけていた。
「ふぅ、全く」
そんな中、一人取り残された私は一人その場でため息をつきながらふと砂場の方へと視線を向けた。
すると……。
「ん?」
そこにはなぜか、さっきまで誰もいなかったはずの場所に『一人の子供』が遊んでいる。
「……?」
確かに私たちはついさっきこの公園に来た。でも、一度はこの周辺を見ている。それなのに見落とす……なんて事があるだろうか。
「……」
そこで私は、その砂場で遊んでいる子供に話を聞こうと歩み寄った。
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