第5話


『はぁ……』

「ん?」


『いや、君の……えと』

「腐れ縁の」


『ああ、うん。緑さんだったけ? てっきり怒られたり祓われたりするんじゃないかって思っていたよ』

「あいつはそんな事しない」


 あいつは話も聞かずに……なんて事はしない。いや、ただ単に面倒くさいだけなのかも知れないけど。


『いや、だってさ。あんな鋭い眼光を見せられたらさ』

「まぁ」


 確かに、数馬の言うとおりだ。


 あの時の緑の視線は、ただ単に「見つめている」なんて穏やかなモノではなく、むしろ『睨みつけている』というほどの鋭いモノだった。


 元々、少し目付きが悪いというのもあると思うけど……。


「……」


 それに、数馬には言っていないが、実は緑は『霊が見えてしまう』だけでなく、昔から霊を引きつけてしまう『霊媒体質』なのだ。


 ちなみにこの『霊媒体質』には個人差はある上に、どういった『症状』が出るのかも人それぞれらしいけれども……。


「ただまぁ、昔からちょっとした観察癖があってね」

『ふーん。じゃあ緑さんは僕が『悪霊』じゃないか観察していたってワケか』


「そういう事でしょうね」

『ふーん』


 ただ、その『観察』をしている時……いや、あの『悪霊であるかどうか見極める時』にはどうしても目を細めないと分からないらしい。


「ん?」


 私は、ふと視界に映った『あるモノ』に気がつき、チラッと横目で部屋の隅の方を見た。


『……? どうかした?』

「いや、何でもない」


 私の目には、ハッキリとは見えないが、何やら白っぽい『光』の様なモノが目に入った。


『ん? 何? あの『光』が気になる?』

「いや?」


『えー、絶対見ているよー』

「……」


 そう言って笑った『こいつ』の頭を鷲掴みした。


『いっ、痛い! 痛いって!』


 自身の事を『死神』と名乗っている『数馬』は、どうやら基本的にテンションが高い。


 元々、テンションの低い『ローテーション』な私みたいに人間にて、こういうヤツはまさに『天敵』だ。


『うー、だってあれは『霊の魂』みたいなモノだから。見慣れているよ』

「ふーん、そう」


『うん。僕たちはああいう彷徨さまよっている魂を送り届けるのが、通常の仕事なんだよ』

「じゃあ、あなたたちは」


 数馬は少し黙っていたが、その後『そうだね』と呟いた。


「……」


 元々、彼ら『死神』は人に取り憑いて仕事をしているらしいが、私の場合――。


 緑の様に『霊媒体質』の強い人間が近くにいる。死神である数馬にとってはありがたい話なのだろうけれど……。


『あっ、もし……』


 彼、数馬は『死神に取り憑かれた』という事実に落ち込んでいる私に『ある提案』をしてきた。


『もし、このままがイヤだっていうのなら……』


 そう言って数馬は『悪霊を祓う』や『地縛霊になってしまった人の除霊』または、『霊で困っている人を助ける』などをした後に入れられる『御札』を『五枚』集める……という事を提案してきた。


 どうyらそれによって、私は解放されるらしい。


 その話を私と一緒に聞いていた緑は終始、数馬の話を不思議そうに聞いていたけど、結局。その事に関しては特に深くは追求しなかった。


「……」

『まぁ、普通はこの『御札を手に入れる事』自体なかなか難しいけど君の場合は霊媒体質の彼もいるしね』


 数馬はそう言っていたが、そんな緑も数馬の話を一通り聞くと、「明日、迎えに来るから」と言ってそそくさと帰ってしまった。


「でも、待って。私がこんな『霊』が見えるようになったのは……あんたに取り憑かれたから?」


 今まではこんな『光』すら分からなかった。


『たっ、多分』

「……」


 どうやら私はただとり憑かれただけでなく、私も『霊が見える』様になった……という事だけは分かった――。

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