シモーヌ編 未練
新暦〇〇三六年六月十九日
俺がここで遭難してすでに四十年近い年月が経ってるが、先にも触れたとおり、あの不定形生物のことを筆頭に、まだまだ分かってないことだらけだ。が、焦る必要はないと思ってる。その時その時に目の当たりにする状況から様々なことを知っていけばいいだけだと思ってるんだ。これについては、レックスも、
「ああ、私もそれでいいと思う。むしろあまりに興味深いことが多すぎて頭がパンクしそうだよ。ここにこうして新たに生を得たことには、感謝の念を禁じ得ない!」
いささか芝居がかった様子でそんなことを口にした。
「私もレックスと同じ気持ちだよ」
シオも笑顔で相槌を打つ。
「そうだね。私もいまだに新しい発見の毎日で、退屈してる暇もないから」
二人の言葉にシモーヌもそう応えた。だが、俺にはその時の彼女の表情がやっぱりどこか寂しげに見えたのも事実だったんだ。
だから、夜、子供達が寝静まった後、二人だけで、
「レックスのことが引っ掛かってるのか……?」
回りくどい言い方をしても仕方ないから、俺は単刀直入にそう尋ねた。それができる相手だというのは分かってるしな。
そんな俺に、シモーヌは、
「……
苦笑いを浮かべつつ、
「そうね。割り切ったつもりだったんだけど、まだレックスに対する未練が自分の中にあるんだっていうのは、嘘偽りない気持ちだと思う……考えないようにしても、シオとレックスの姿を見てしまうと、どうしても、ね……」
とも、正直に告げてくれた。ここで俺に気を遣って、
『なんでもない』
と言ってくれたところで、『何でもないことはない』のは明白なんだから、逆に心配にもなるしやがてはそれが不信感にも繋がっていくこともあるだろう。人間ってのはそういうものだと思う。
そんな<本音>を受け止められない人間の場合はどのみち破綻するだろうが、俺はむしろ<本音>を明らかにしてくれないと対処できないタイプだからな。確かに言い方というものはあるとしても。
その点、シモーヌは言い方もきちんと考えてくれるから、俺は彼女を信頼できている。その上で、彼女の選択を尊重したいと思う。
が、彼女は、
「大丈夫。あなたのことは愛してる。
申し訳なさそうに微笑みながら言ってくれた。となれば俺も、
「ああ、分かった。ゆっくり自分の気持ちと向き合ってくれたらいい」
と応えたんだ。
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