シモーヌ編 死を望む

そんなわけで、れいの子であり俺にとっては曾孫にあたるメイと、もういつ生まれてもおかしくないあかりの子であり俺にとっては孫にあたる子に引き続いて、俺の子が新たに生まれる可能性が高まった。


もちろん、確実に妊娠が継続されるかどうかはまだ分からないものの、その時はその時だ。何が起ころうとも受け止めるだけだよ。


ショックは受けるだろうけどな。


そもそも『生きる』ってのは、何もかもが自分の思い通りに行くわけないというのが本来は当たり前のはずだ。むしろ、自分の思い通りに行くことの方が稀なんだよ。


天気や災害が、自分の望んだとおりになるか?


自分以外の人間が完璧に自分の思い通りになってくれるか?


ならないよな? それが当然だろう? 妊娠・出産だってそうだし、生まれてくる命そのものが自分の思い通りになるわけじゃない。


当たり前じゃないか。


なのに人間は、<生まれてくる命>そのものが自分の期待通りであってくれることを望んだりする。で、そうじゃなかったら、


『殺して次のを』


とも考えたりする。


でもな、そんな考えで自分の命を尊重してもらえると思う方がどうかしてるぞ?


『都合が悪いから殺せばいい』


って考えを自分に向けられることがないと思ってるのならそれこそ<お花畑>ってヤツだ。


『命を大切にする』


というのは、<綺麗事>じゃないんだよ。それ自体がれっきとした、


<安全保障>


なんだ。


『他者の命を尊重するからこそ、自分の命を尊重してほしいと主張できる』


ということだ。他者の命を尊重しない者は、自分の命も尊重してもらえないし、それを主張しても聞き入れちゃもらえないんだよ。


だからたとえどんな子供が生まれてこようとも、その命は尊重されなきゃならないんだ。


<自分の命を尊重してもらう代償>


なんだと理解するべきだな。ゆえに地球人類は、医療技術を発達させ、遺伝子疾患すら根治できるようにした。


ここじゃまだそれは望むべくもないが、それをフォローするためにもロボットを用意したんだ。人間では対処しきれないこともロボットならできるしな。


そもそも、ここじゃ、


『どんな子供が生まれてくるか分からない』


方が『当たり前』だからな? あと、俺の子供に対して、


『死んだ方がいい』


とかホザく奴の言うことなんかに貸す耳はないね。むしろそんなことを言う奴の方が死んでほしい。俺の家族の死を願うような輩にこそ死を望む。


が、そんなことをホザく奴でさえ誰かの<子供>であり<家族>なんだ。だからたとえそう思ってしまったとしても実行には移さないし、面と向かって口にすることもない。


それはれっきとした<安全保障>なんだよ。


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