シモーヌ編 予備検査

新暦〇〇三六年三月二十二日




シモーヌは、俺の嫁さんの一人だ。と言うか、今は、ロボットであるエレクシアを別にすれば唯一の嫁さんだ。


ところで、<嫁>って言葉に過剰反応するのが地球人社会にはいるが、俺は別にシモーヌを俺の所有物だと思ってるわけでもないし、あくまで対等のパートナーとしか思っちゃいないぞ。<嫁>って言葉が元々持ってたニュアンスも、事実上失われてるしな。単に<伴侶>や<パートナー>というニュアンスしか残ってないのが実情だ。


などという余談はさておいて、俺はシモーヌを愛してる。シモーヌも、俺を愛してくれてる。


オリジナルの<秋嶋あきしまシモーヌ>には、<十枚とおまいアレクセイ>というパートナーがいて、本音を言うと彼に対する想いそのものは、シモーヌにも残っているそうだ。


とは言え、それは事実上、


<亡くなった想い人への気持ち>


と同じようなものとも言えるわけで、彼女もその辺りは割り切ってくれている。割り切ろうとしてくれている。


で、そんな彼女が、


「もしかしたら妊娠したかも……」


とか言いながら、予備検査キットを俺に見せてきた。そこにははっきりと<陽性>の表示。


「おう……」


確かに、シモーヌの肉体年齢は、老化抑制技術が実用化される以前の三十代前半くらいで、俺は同様に四十代くらいって感じだし、そういう部分も含めた夫婦関係も良好だったから、何も不思議のない結果なんだが、


「いひひひひ! 曾孫も生まれたってのにまた子供とは、お盛んですなあ♡」


タブレット越しにあかりがものすごく悪戯っぽく笑ってた。ああもう、そうだよ、悪いかよ!


でも、決してあかりもそれを責めてるわけじゃないのは分かってる。ただの、


<お祝い代わりの冷やかし>


だ。そして、


「これは、おめでとうと言うべきだね」


「おめでとうございます♡」


久利生くりうとビアンカも祝ってくれた。もちろん、


「おめでとう。お父さん。お母さん」


ひかりも笑顔で言ってくれて、


「シモーヌ、赤ちゃん生まれるの!? お祖父ちゃんの赤ちゃん!?」


「すげーっ! すげーっ!!」


まどかひなたも素直に喜んでくれた。昔の地球人社会じゃなんかいろいろ言われたらしいが、老化抑制処置が当たり前になって、


<百歳差の兄弟姉妹>


なんてのもそんなに珍しくもなくなってからは、それを揶揄する者の方が珍しくなったそうだ。


だいたい、<年齢>なんてもの自体に実質的な意味が失われて久しいからな。


俺も、曾孫が生まれてからまた子供が生まれるってことについては、そんなに気になるわけじゃないし、シモーヌと俺とがちゃんと夫婦だったんだなって改めて実感しただけだよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る