玲編 物理書き換え現象

けれど、俺がそんなことを考えているうちにも、状況はよくない方向へと転がっていった。


「ぎゃうっ!!」


龍昇りゅうしょうに攻撃を仕掛けたれいが、逆に鎌の一撃を食らって首筋に大きな傷を負った。鎌の棘で皮膚が切り裂かれ、血が飛び散る。


れいっ!!」


俺が思わず声を上げた以上に動揺したのがえいだったようだ。れいを庇おうとして駆け寄ったところに龍昇りゅうしょうの右回し蹴りをモロに頭に受けて吹っ飛ぶ。


きゅう号機と拾弐じゅうに号機も援護に入ろうとするが、その動きに慣れたらしい龍昇りゅうしょうは、それぞれの攻撃を躱してそのままれいにとどめを刺そうとするかのように彼女の頭を狙って左回し蹴りを。


完全に決まれば彼女は間違いなく死ぬだろう。そんな一撃だった。


が、そこに割り込んでくる影。


めいだった。めいれいを庇うようにして間に滑り込んだんだ。そして頭に龍昇りゅうしょうの蹴りを食らい、そのはずみでれいごと地面に倒れ込む。


「やめ……っ!!」


『やめろ!』と俺が叫ぼうとしたその瞬間、逆に龍昇りゅうしょうの体が、爆発したかのように弾け飛ぶ。


「っ!!」


ああ、そうだ。エレクシアだ。まさしくスーパーヒーローのごとく彼女がまた、ここぞというところに現れたんだ。


彼女の掌打を受けて吹っ飛んだ龍昇りゅうしょうの体が木の幹に叩き付けられ、それだけでは勢いが収まらずに回転しながら茂みに転がり込む。


いやもう、これ自体、生身の地球人なら十中八九死んでいる攻撃だ。けれど、彼女はちゃんと<手加減>していた。事実、龍昇りゅうしょうは茂みの中で体を起こし、横移動。突然現れたエレクシアを警戒しているのが分かる。


そして当のエレクシアは、きゅう号機と拾弐じゅうに号機にれいの応急手当を指示しつつ龍昇りゅうしょうに向かってゆったりとした感じで歩いていく。それこそ散歩でもしてるみたいにな。


けれど彼女は今、<戦闘モード>で最大稼働中だ。だから、龍昇りゅうしょうめい達が戦闘に入ってから一分少々で駆け付けることができた。


龍昇りゅうしょうも、自分がまったく知覚できずに接近を許したことに戸惑っていることだろう。


いや、『知覚できなかった』んじゃないな。


『知覚できた時にはもう掌打を食らっていた』


と言った方が正しいか。認知できる範囲外から、感覚がエレクシアの接近を捉えてその情報が脳に届き認識できるまでのほんのわずかな時間でエレクシアは接敵したんだ。だから、どれほど強大であろうとも生物である限りは反応できないということだな。


なのに、彼女の動きに牙斬がざんは反応してみせた。これは、あの<不定形生物由来の怪物>が、


<物理書き換え現象>


を利用していると推測されることの裏付けの一つになるだろう。


本来なら物理的に反応できないのを超越していたわけだから。


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