玲編 アリゼドラゼ村

新暦〇〇三五年十月十六日




駿しゅんのパートナーであるごうが亡くなっても、この世界は何事もなくそこにある。その一方で、駿しゅんは意気軒昂だった。まあ、前にも触れたように地球人でも伴侶が亡くなった途端に逆に元気になる女性がいたりするが、正直、俺にはそれと同じには見えなかった。


どちらかと言えば、『気を張ってる』感じかな。ごうがいなくなった分を自分が支えなきゃと思ってる感じだろうか。


これもあくまで俺の印象なだけで、合ってるかどうかは分からない。分からないものの、駿しゅんがそう振る舞っているのならそれでいいとは思う。彼女らとはあくまで<隣人>だ。隣人とは相応しい距離感というものがある。


もっともこれ自体、龍準りゅうじゅんの一件の際に俺の判断が遅れたことでごうが死んでしまったのかもしれないという考えを緩和するための詭弁の類かも知れないが。


やれやれ、人間ってのは本当にメンドクサイ生き物だ。


それも思い知らされつつ、アリゼドラゼ村の様子を窺う、


アリゼドラゼ村には、現在、アリゼとドラゼ、ドーベルマンMPM、りょうのパートナーの鈴良れいらとその息子のマッハが暮らしている。


ようの娘であるしょうの息子のりょうの息子<マッハ>は、今年で満四歳になる。とは言え、見た目上はすでに十歳くらいには見えるので、来年か再来年くらいには巣立つだろうと予測されてる。


血縁上は叔母に当たる楼羅ろうらが突然死してしまったもののマッハはとても元気で、ここまで何か触れなきゃいけないような特別なこともなかった。


そのマッハは今、母親の鈴良れいらから狩りの手ほどきを受けている真っ最中だ。獲物は基本的に、鳥や魚、小動物。特にチップ竜チップと呼ばれるリスに似た小動物が好物らしい。チップ竜チップを見掛けると猛然と襲い掛かって、まあだいたい三割くらいの確率で捕えることができる。狩りの成績としてはもう十分だろうな。


ちなみにチップ竜チップも、その近似種と合わせこの密林にはごく普通に生息してる種だ。ヒト蜘蛛アラクネが住む側の密林にも多数生息し、最近ではヒト蜘蛛アラクネの本体側の背中の古くなった皮膚とかを食べてくれる<掃除屋>として共生関係が始まりつつあるようにも見受けられる。


ただしこちら側にはヒト蜘蛛アラクネがいないので、そういうのは見られない。なお、外見や生態はリスに似ているが雑食性で、木の実や果実の他に昆虫もよく食べる。まあ、むしろネズミに近いかもしれない。


樹上生活に完全に適応してるようなので、リスをイメージしてチップ竜チップと呼んでいるだけだ。


で、樹上生活していることで、逆にアクシーズからは狙いやすいと。


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