玲編 剛

新暦〇〇三五年十月十五日




龍準りゅうじゅんの一件の二日後。ごうが突然、息を引き取った。あの一件が影響したのかどうかは分からない。鎌を振りほどいた時に傷を負ったが、それも致命傷になるほどのものじゃなかったはずだ。


なのに、ごうの命は終わりを告げた。かくの時もそうだったが、野生ではこうして前触れもなく死ぬことは珍しくもない。だからこれもそういう一例だったに過ぎないんだろう。


ただ、どうしても龍準りゅうじゅんの一件が影響したのかもしれないなとは、思ってしまう。俺の判断が遅れた所為なんじゃないかと……


だが、何度も言うように、だからこそ今回もそれを俺自身に言い聞かせるために言う。


『いちいち気にしてても始まらない』


と。


「そっか……ごうが……」


駿しゅん、つらいでしょうね……」


ビクキアテグ村にも連絡を入れ、あかりとビアンカにごうの訃報を伝えた。


ビアンカはそう言うものの、ボクサー竜ボクサーには本来、そこまでのメンタリティは備わっていないはずだ。はずなんだが……


駿しゅんは、ごうの遺体を何度も頭で揺すったり、前脚で掴んで起こそうともした。何度も、何度も。そんな様子を、群れの仲間達は遠巻きに見ているだけだった。まるで、


『二人きりにしてやろう』


とでも言うかのように。


そうして、何度やってもごうが起きないことを確認し、踏ん切りがついたのか、駿しゅんごうの遺体に食らい付き、肉を食いちぎった。ここまでやっても起きないのなら、それはもう確実に死んでいるということだ。そこからは容赦なくごうの肉を、命を、自身に取り込もうとでもするかのように食らっていく。


これが、彼女の<悼み方>なんだろう。これからは文字通り一体となって生きていくという。


やがて他の仲間達も加わり、ごうの姿は見る見る失われていった。ただの、


<肉の欠片がついた骨>


へと変じていく。


この様子には、まどかひなたも泣いていた。見た目こそもう大人とそう変わらない二人だが、実年齢は八歳と七歳(今月で)だしな。ごうは、レッド達のいわば<親戚>に当たる存在だ。龍準りゅうじゅんに食われたパパニアンと違い、ペットに近いとはいえまだずっと身近な存在だった。だから気持ちが昂ってしまったんだろうな。地球人だって、見ず知らずの誰かの死にショックを受けなくても、家族同然だったペットの死には涙したりもするだろう? それと同じだと思う。


まどかがまだ幼い頃に楼羅ろうらが亡くなって、その遺体をこの集落の墓地に埋葬し簡単な葬式を行った時にはあまりピンと来ていなかったらしいが、成長するにしたがって俺達のメンタリティを学び、自らに取り入れていったってことなんじゃないかな。


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