玲編 可能性
新暦〇〇三五年八月八日
マンティアンとしては例外的なくらいに静かに、穏やかに。
その事実をエレクシアから伝えられた
野生で生きる者は、地球人のように悲嘆に暮れていられる余裕はないからな。そんなことをしてる間に命を落とすような世界だ。だから分かりやすく悲しんだりすることの方が稀だ。
そう自分に言い聞かせつつ、
しかしだからこそ、
それが分かってしまうからな……
加えて、
地球人には、夫に先立たれた妻がかえって元気になったりすることがあるとも聞くが、そういう事例はたいてい、夫の存在が負担になっていた妻の場合だとも言うしな。本当に仲が良かった場合はどうだろう。
とは言え、影響があろうとなかろうと、
「エレクシア、何か異変があったら、俺が寝てても叩き起こしてくれ」
「心得ています」
改めてそんなやり取りをする。そうだ。ロボットは人間のように言われたことを忘れたりしない。以前からすでにそう頼んであるから、容赦なく叩き起こしてくれるだろう。
地球人社会では、子供が親より先に逝くのは<親不孝>とされているが、俺の場合はむしろ、俺の勝手で送り出した子供達を見送れない方が納得いかないと感じてる。
感じてるんだが、もちろん、嬉しいことでもないな……
「
ドローンの映像越しに問い掛けるが、当然ながら返事はない。たとえ面と向かって問い掛けても応えちゃくれないだろう。それも分かってる。
分かってるんだが、人間ってのは本当に面倒臭い生き物だよ……
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