灯編 ケインという人間
こうしてケインは育児室から出たものの、イザベラとキャサリンについては、まだ衝突を繰り返していた。ケンカは別にいいにしても、いかんせん<攻撃力>が高いからな。最低限、<加減>ってもんを覚えてもらわないと迂闊に外に出せない。
ケインとは全く違うが、まあこれも『ケインじゃない』以上は当然のことだ。ケインと同じであることを期待するのは筋が違う。
そしてケインは、二人と顔を合わせることを恐れてか、ビアンカが食事を与えるために育児室に入ると、手前の部屋で自らビアンカの背中から下りて、隅の方で固まってしまう。
それを見た
「ケイン~♡」
と部屋に入って声を掛けるものの、ケインは動こうとしない。まだビアンカにしか気を許してないということだろう。イゼベラやキャサリンと違って攻撃的ではないものの、まだまだ友好的ってわけでもないか。
先は長い。
「やれやれ……」
部屋で待機しているドーベルマンMPMの前で頭を掻きつつ苦笑い。けれど別に怒ったりしてるわけじゃない。ただのポーズだ。無理にケインに近付こうともしない。
『あやそうとして』とか『可愛いから近くで見たい』とか、そんなのは通じないんだよ。『あやそうとしてあげてるのに』『可愛いと思っただけなのに』なんて自分の感情を一方的に押し付けようとするから警戒される。<知らない相手><得体の知れない相手>は怖いんだ。<人懐っこい赤ん坊>ももちろんいるが、全員じゃない。それをわきまえないとダメだ。
一方、ケインは
<ケインという人間>
を受け止めてくれる。彼が自身の周りにいる者達が自分にとってどういう存在かを彼自身の中で整理するのを待ってくれるんだ。
でもまあ、同時に、なるべく早く仲良くなりたいとも思ってるんだけどな。
「だけど、思い通りにはいかないよね~」
そう言って穏やかに微笑んだ。彼女の<器>がそこに垣間見える。
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