灯編 ケインと素戔嗚

とは言え、ケインもただ臆病なだけでもない。周囲の状況をしっかりと確認して、自分にとって危険かどうかを探ってはいるんだ。何しろ自らの命に係わることだからな。当然と言えば当然か。


地球人の赤ん坊と違ってもうすでに自分の身は自分で守れるだけの能力もあるんだ。


重要なのはそのケインに、<敵>だと思われないこと。


でも、その点についてはあかりだけじゃなく久利生くりうもルコアも、心得てくれてるからな。あとはその効果が表れてくれるのを待つだけだ。


となればやっぱり問題は、未来みらいと、さらに素戔嗚すさのおだな。


だが、いつものように日が傾き始めた頃に、黎明れいあは授乳の後に寝てしまったので久利生くりうに預けられたものの、ケインは離れようとしなかったことで背負ったままでビアンカが素戔嗚すさのおに会いに行くと、


「……?」


ビアンカの後ろに見え隠れする小さな影に気付きながらも、素戔嗚すさのおは特に気にするでもなく、ドーベルマンMPMを相手にいつも通りに挑みかかるだけだった。彼にしてみるとビアンカに見守られながら自分の力を試しつつ発散できるのが重要らしく、ケインのことはどうでもいいらしい。


ただし、ケインだけで素戔嗚すさのおの前に出たりすればおそらく<獲物>として狙われたりもするだろうから、それは避けないといけないけどな。


もう家族同然ではあっても、素戔嗚すさのお未来みらい以上に野性が強い。しっかりと<野性の猛獣>であることをわきまえて対処しないといけない。何しろ、ビアンカ以外には気を許してないから、あかりさえ迂闊には近寄れないんだ。


そういう意味ではむしろイザベラやキャサリンの方がまだ<人間>だと思う。


それでいて、未来みらいよりも年上だからか、今では無暗に攻撃的に振る舞うわけでもない。毎日こうやってしっかり発散できてるのも功を奏してるんだとは思うものの、素戔嗚すさのお自身も成長してるんだろうな。


だから距離感さえ間違わなければ大丈夫そうだ。その『距離感さえ間違わなければ』というのが実は難しいしても、そこはドーベルマンMPMらロボットに頼るとしよう。ヒューマンエラーをフォローするのもロボットの役目だ。


ケインがうっかり素戔嗚すさのおのテリトリーに入ってしまったりということがないようにな。


そんなこんなで素戔嗚すさのおの<修行>にも付き合ったビアンカが戻ってくると、


「おかえり♡」


あかりが迎えてくれる。


「ただいま」


ケインと素戔嗚すさのおとで衝突がなかったことでホッとした様子のビアンカが笑顔を浮かべる。


ビアンカのその笑顔を、あかりは求めてるんだよな。


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