灯編 育児室の外に

「セシリアが、ケインを外に出してみたらどうかって言ってるんだけど、どうかな?」


ビアンカに問い掛けられて、あかり久利生くりうも、


「セシリアが大丈夫ってんなら大丈夫でしょ」


「そうだね。僕もそう思う」


躊躇うことなくそう応える。二人もセシリアのカメラを通してケインの様子は見てきたし、むしろ二人としてはもっと早く出してもいいんじゃないかと思っていたそうだ。セシリアはロボットであるがゆえに想定されるすべての事態がクリアできるかどうかが大事だっただけで。


こうして、まずケインが育児室から出ることになった。


ビアンカが跪いてケインの体の下にそっと手を差し入れても、逃げる様子がない。そしてビアンカに抱かれたケインは、いよいよ育児室の外に。


念のため、外には、ハートマン、グレイ、ドーベルマンMPMらが待機していたが、そのものものしさに逆にケインが怯えてしまう。


「大丈夫だよ、ケイン。みんな私達の仲間だから」


ビアンカはそう穏やかに声を掛けるものの、さすがにすぐには納得できないよな。そもそもまだ言葉も完全には理解できてないみたいだし。生後一ヶ月半程度なら当然だが。


それでも、ビアンカが抱き締めてくれてる分には安心できているらしく、暴れたりはしなかった。


あかり久利生くりうとの面会も、


「こんにちは、ケイン」


「よろしく」


あくまで距離を置いて、ケインにあまりストレスを掛けないように配慮して行った。


ケインは、あかり久利生くりうとビアンカを交互に見て、状況の把握に努めていたようだ。特にビアンカの様子を見ることで、危険が迫っているかどうかを判断しようとしているらしい。ビアンカが落ち着いているなら危険も少ないと、明確な思考としてそんなことを考えてるわけじゃないにしても、ある程度は察してるんだと思う。


ちなみにこの時、黎明れいあはお昼寝中だった。まあだからビアンカがケイン達に食事を与えに行ったんだけどな。


モニカと未来みらいについては、念のため、家の中で待機してもらってる。ルコアはともかく未来みらいは、タブレット越しに姿を見てはいたものの明らかに警戒している様子だったし。この時点で顔を合わせるのは思わぬ事故がありそうだったから避けておいた。


今後も、未来みらいとは少し距離を取った方がいいだろう。ケインの方から襲い掛かったりはしないにせよ、未来みらいとしてはこの異様な姿の生き物を<仲間>と認識するには多少時間もかかるだろうから。


でもまあ、そう遠くないうちに慣れると思う。なにしろよく見ればビアンカと同じ姿をしているし、ハートマンやグレイともどこか似ているしな。


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