灯編 それぞれの性格

『相手が常に自分の思い通りに動いてくれることはない』


それをきちんと理解していれば、イザベラがケインに襲い掛かっても、別に慌てることもない。そのためにセシリアがいて、ドーベルマンMPMを配しているんだからな。


しかし、保育器が開けられても、イザベラは隣の机にいたケインに襲い掛かることも、セシリアに襲い掛かることもなかった。机の上を行ったり来たりして不思議そうに周りを見ていただけだ。


もちろんそれは、ちゃんと食事を与えて空腹じゃない状態で保育器を開けたからというのもあると思う。空腹の状態だったら、もしかしたら襲い掛かっていた可能性の否定はできない。なので、念のため、ケインとイザベラ両方に生肉を与えてみる。


けれど、ケインは見向きもせず、イザベラは手に取って食べたものの、半分も食べないうちにその生肉をいじって遊びだした。やっぱり腹は減ってないということだろう。


そして最後に、キャサリンの保育器を開ける。するとキャサリンは、机から飛び降りて部屋の中をぐるぐると巡り始めた。自分が今いる状況を自ら把握しようとでもするかのように。


そんな様子が、それぞれの<性格>を表している気がする。


ケインは臆病なくらいに慎重で。イザベラは鷹揚。そしてキャサリンは好奇心旺盛と言ったところか。


ただしこれはあくまで、<生まれつきの性格>でしかない。俺も何人もの子供達を見てきたからこそ分かるが、<生まれつきの性格>が成長してもそのままという事例の方がむしろ少ないんだ。ほまれはとんでもないやんちゃ坊主だったが、今じゃすっかり落ち着いて貫禄さえあるし、じょうも、おとなしい性格だと思ってたのが今ではマンティアンとしては普通だ。


一方、かいは割と今でもそのままな部分もありつつ、幼い頃に比べれば臆病な部分もマシになったと思う。


ほむらだって、カッとなる面もありつつ普段はさいとイチャイチャしてるだけでおとなしいもんだ。幼い頃はあかりと一緒になって家を壊しまくってたのにな。


だから<生まれつきの性格>なんてあんまり当てにならないんだよ。


ケインとイザベラとキャサリンだって、成長と共にどう変わっていくか分からない。


ちなみに、三人の遺伝子を確認すると、ケインは他の二人とは『まったく血縁関係がない』としか判定されないくらいに異なってて、イザベラとキャサリンも、<異父姉妹>と判定されるそれだった。


つまりそれだけ、<異なる遺伝子を持った生殖巣>がビアンカの体には備わっていたということになる。何しろ三人は、黎明れいあとも完全に『血縁関係がない』という判定が出たんだからな。


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