灯編 他所の家族
この時のビアンカの感覚も、理解できない人間には理解できないだろうから、それを『理解しろ!』とは言わない。俺だって完全に理解できてるかと言われれば、そんなことはないだろう。
人間は、自分以外の人間の気持ちや感覚を完全に理解できることはない。それは有り得ない。
『気持ちは分かる』
なんて言葉も、『分かった気になってる』だけで実際には分かってないことなど枚挙に暇もないだろう。
だからこそ、他人のそういうことについていちいち口出しするのは<無粋の極み>だと言うんだ。それをわきまえていれば、無駄に<地雷>を踏むこともない。すべてを完璧に躱すことはできなくても、避けられる確率は間違いなく上がるんだ。
なにより俺は、デリカシーのないことを言って相手を傷付けたいとは思わないんだよ。
ビアンカのことも、彼女がどれだけ不安を覚えていたのかなんて結局はビアンカ自身にしか分からないから、余計なことは言わない。俺が言わなくたってビアンカは自分でだいたい何とかするし、何より
俺がするべきことは、
『余計なことは言わない』
ってだけだな。何しろ、<他所の家族>なんだし。
他所の家族からあれこれ言われてもいい気はしないだろ? そういうことだ。
いずれにせよ、ケインとイザベラとキャサリンに<人間らしさ>の片鱗が見えてきたのならそれは朗報だ。あとはそこを伸ばしていけばいい。メイトギアであるセシリアはその辺のところもお手の物だ。
加えて、十日ほど経って明らかに一回り以上大きくなったケイン達を、いよいよ保育器から出す。
母親の体内から出てくるのと同じだ。
「では、開けます」
セシリアがそう告げて、まずはケインの保育器を開ける。
「……?」
するとケインは、不思議そうな表情をして周囲を見渡していた。その様子はとても落ち着いているようにも見える。
うん。大丈夫そうだ。保育器が置かれていた机の上から動こうともしない。ただセシリアのことを目で追っているだけだ。
なので続いて、イザベラの保育器に手を掛ける。ただし、イザベラはケインと違って
その可能性は十分にある。
とは言え、この十日間、セシリアが子供達の排泄物を除去したり体を拭いたりするために手を入れたのを齧ろうとしたりしてたのは最初の二日程度だけで、それ以降はそんなこともしなくなったけどな。
ただし、重ねて言うが、ケイン達がもしアラニーズとして生きていく様子を見せなかったとしても、
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