灯編 大した問題じゃない

土竜モグラを見て逃げ出したケインも、生肉を与えれば食べてくれたので、人間として生きる分には問題ないだろう。むしろ彼が一番有望だと思う。


今のところは。


これも、成長と共に変わっていく可能性があるので、すぐに結論は出せない。とにかく見守るだけだ。


そんな<我が子達>の様子をタブレット越しに見詰めるビアンカは、黎明れいあに乳を与えつつ何とも言えない表情をしていた。それを久利生くりうが、そっと体を撫でることで労わる。


ビアンカとしては不安だろうな。自分の子供達が人間として生きていけるかどうか分からないというのは。


黎明れいあは完全に人間として順調に育ってるだけに余計にそうだろうと、同じ<子を持つ親>として想像してしまう。とは言え、俺の場合はそれこそ、


パパニアンとして立派に生きているほまれ


マンティアンとして立派に生きているめいじょう


レオンとして立派に生きているそうかいりん


アクシーズとして立派に生きているしょうすい


を見てきてるから、


『人間として生きてもらう』


ことに対して強い執着もない。それぞれの生を力強く生きてもらえればそれで十分なんだ。


ただこれはなあ、俺が<父親>だからというのもあるかもしれない。<母親>が違った願いを持ってても何もおかしくないと思うんだ。


この辺りも、主に久利生くりうに任せることにはなると思うものの、俺達もフォローはしたいと思う。


そんな中、あかりが、


「ビアンカ、大丈夫だよ。あの子達がどんなのでも、私の家族だから。あの子達はあの子達で立派に生きてくれるよ。私の兄弟姉妹達もそうだから」


ビアンカに声を掛ける。


そうだ。誉達とはまさに血の繋がった兄弟姉妹であるあかりにとっては、ヒト蜘蛛アラクネと非常に近い体を持つアラニーズであるケイン達が、人間として生きるにしてもヒト蜘蛛アラクネと同じ生き方をするにしても、どっちでも大した問題じゃないんだ。


するとビアンカも、


「そうだね……そういうことだよね」


笑顔を見せてくれる。さらには、


「私も、サーペンティアンとして生きられてるよ」


ルコアも言ってくれる。本当に頼もしい。すごく大事なことを言ってくれてると思う。ビアンカ自身もそうだ。アラニーズとして彼女は生きている。その事実が何より大きな意味を持つ。


こうして家族一丸となってケイン達を見守っていくことを改めて誓ったビアンカ達をあかりが嬉しそうに見ている。


そうだな。彼女にとってはこれが一番なんだろう。家族が幸せに生きられていることが、あかりにとっては何よりの幸せなんだと思う。自分が子供を残すかどうか以上にな。


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