灯編 個体差

こうして生まれた三人の子供達を、ビアンカは、


<ケイン>


<イザベラ>


<キャサリン>


と名付けた。名前からも分かる通り、男児一人に女児二人だ。取り敢えず、尾部の形状を見る限りは。


ただし、<人間のようにも見える部分>は、三人とも<女性>だった。つまり、ケインもばんと同じく、


<人間のようにも見える部分と本体の性別が一致していない個体>


ということである。これは、ほぼ二分の一の確率で起こることだというのは分かってるので、異常でも何でもない。ただ、ヒト蜘蛛アラクネの場合はほとんど影響がないことは判明してるものの、アラニーズの場合はどうなのかというのは現時点では分かっていない。


で、くだんの、


『生きた土竜モグラを入れたら怯えて逃げ回った』


のは、ケインだった。だが、勘違いしてはいけない。


『男のクセに情けない!』


なんてのは、地球人の感覚に過ぎない。野生では、性差による凶暴性の違いなんて大して顕著でもないし、むしろ雌の方が雄よりよっぽど狂暴という種だって別に珍しくない。ヒト蜘蛛アラクネの場合も、雌と雄の凶暴さに有意な差は認められなかった。だから単純に<個体差>というだけだ。


それに、人間として育つなら、<朋群ほうむ人>として育つなら、出生時に見られた<生来の気性>なんてのもそんなに重要でもないと思う。その後の経験で大きく変化する可能性は高い。


遺伝子的には純粋なマンティアンであるれいだって、俺達の家族としてここにいる限りは、むしろおとなしい方だと思う。マンティアンとしての凶暴性はかなり抑えられている。


もちろん、マンティアンでありじんの娘であるめいの息子のえいは生まれつきマンティアンとしては異例なほどおとなしい性格で、それは今も変わらないが、ここに寝床を確保しているというだけで、普段の生活ぶりはマンティアンとしてはまあまあ普通だと思う。<仲間><家族>と認識してる相手は意図して襲わないというだけでしかない。


だから、人間として生きていく限りは致命的な<欠陥>ではないはずなんだ。


あくまで問題は、


『人間として生きていけるかどうか』


なわけで。


だがそれも、なにぶん初めての事例だからどうなるかは分からないし、とにかくやってみるしかないんだよ。


そんなわけで、ケインが入っている孵卵器(いや、今はもう保育器としての機能に切り替わってるが)の中の土竜モグラをセシリアが取り出し、代わりに猪竜シシの生肉を差し入れてみた。


するとケインは、恐る恐る近付いていって、セシリアの手から肉をひったくって保育器の隅で小さくなって、でもしっかりと肉を食べ始めたのだった。


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