蛮編 最適な一撃

ばんの右手(触角)の小指と薬指に当たる部分が弾け飛び、頬も大きく切り裂かれて歯茎さえ見えていた。とは言え、ばん自身も非常にテンションが上がっているからかあまり気にしている様子もない。


人間のように自身の体が欠損しようとも、社会的にそれがなんらかの意味を持つこともないので、痛みやダメージという意味しかなく、となれば、指の一本や二本など構っていられないし、構う必要もないし、ひたすら攻撃を続けるだけってことだな。


だからばんは、一瞬も躊躇せずヒト蛇ラミアの尻尾に木の枝を突き刺し、そのまま地面へと縫い付けた。いくらタングステン並みの強度を持つ鱗に覆われていても、その鱗の基部になっている部分自体はそこまでの強度はないだろう。鱗は破壊されなくても、角度と威力が上手く合わされば木の杭でさえ刺さることがあるのがこれで確認された。もっともこの程度では完全に動きを封じることはできずにすぐに木の枝が折れて自由になったものの、一瞬だけでも反応を遅らせることができただけでも大きな意味はあった。


振り返ったヒト蛇ラミアの視界にドーベルマンMPMがわざと入って意識を逸らし、そこにばんが容赦のない蹴りを放つ。ヒト蛇ラミアの、消化器官が破れた辺りに向けて。


それ自体は偶然だったとしても、この時点では最適な一撃だったようだ。


ばんの蹴りは、破れた消化器官から漏れた強力な消化液で元々ダメージを受けていたであろうヒト蛇ラミアの内臓をさらに破裂させたんだ。


消化器官の内容物以外はすべて透明なので分かりにくいが、この時、ヒト蛇ラミアの内臓はぐちゃぐちゃになっていたんだろうな。


どれほど途轍もない戦闘力を持とうとも、内臓の多くに致命的なダメージを受けては、その機能を維持することは難しい。ロボットでさえ、機能を維持するのに必要な部品にダメージを受けては機能不全に陥るわけで。そういう点では生物も機械も変わらないか。


おそらく、体内で大出血が生じた上にその出血が他の臓器を圧迫し、機能維持に支障をもたらしていたんだと推測される。


「ガアアアアッッ!!」


戦意は衰えないものの、動きは確実に低下していた。しかしそれでも、二度目の蹴りを放ったばんに対し尻尾で攻撃、ドーベルマンMPM四十二号機が間に入って庇おうとするものの、右腕と右前脚がへし折られ、さらにばんの本体を打ち据えた。


人間が殴った程度ではびくともしない本体の表皮がその下の組織ごとごっそりと抉られ、血飛沫が舞う。


「グアッッ!!」


これにはさすがにばんも悲鳴を上げた。上げたが、ばんは、三度目の蹴りをヒト蛇ラミアの腹にお見舞いする。


「ッガアアッッ!?」


するとついに、ヒト蛇ラミアが地面に倒れ伏した。当然、ばんがそのチャンスを見逃すはずもない。


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