蛮編 そういうもの

ボギャッッ!!


地面に倒れ伏したヒト蛇ラミアの顔を、ばんは容赦なく全力で踏みつけた。何とも言えない音と共に、ヒト蛇ラミアの頭が破裂する。


当然、即死だ。だが、死してなおその体は、『死なばもろとも』とばかりに、滅茶苦茶に暴れ始めた。脳による制御が失われたことで、全身の筋肉がデタラメに動いているって感じか?


その時間、約五秒。


たった五秒だというのに、周囲の木々はことごとくなぎ倒され、ようやくヒト蛇ラミアの動きが収まった時、ばんが蹲っていた。大量の血が地面に滴っている。見れば、彼の左肩から右脇腹に掛けて真っ赤に染まっていた。


ヒト蛇ラミアの尻尾が当たったらしい、左の乳房がごっそりと抉り取られているのが見えたんだ。


死んですらなおこの威力。確かに、がく夷嶽いがく牙斬がざんに比べれば格下でも、普通にとんでもない<怪物>なのは間違いない。


右腕と右前脚を失ったドーベルマンMPM四十二号機も、かろうじて動ける状態だったようだ。そこに、ようやく、駆け付けてくれた。


エレクシアを乗せたアリアンが。夷嶽いがくの麓への移送を終えてな。


「エレクシア。状況の確認を。それと、ばんの応急処置を頼む」


「承知しました」


彼女は淡々と応え、まだ二十メートルは高度があったアリアンのドアを開けてそのまま飛び降りた。まあ、彼女にとってはちょっとした段差程度でしかないからな。


ふわりと重力を感じさせない優雅さで地面に降り立ち、青いウィッグをかき上げた彼女は、周囲の状況を確認する。そこに、ワイヤーに繋がれたグレイが遅れて降り立つ。


互いに通信で連絡を取り合いながらさらに現場の状況を確認。エレクシアはヒト蛇ラミアの体に触れてバイタルサインを取得。一切のそれが検出できないことでそこにあるのがもうただの<肉の塊>に過ぎないのを確認した。完全な<死>だ。蘇生の可能性もゼロではないにしても、フィクション的にはここでもう一暴れしてくれた方が盛り上がるかもしれないものの、さすがにそんな都合よくはいかない。


ヒト蛇ラミアの死を確認した後、蹲っていたばんに近付いて彼の傷に応急処置に使う止血用のスプレーを吹きかけた。その上で彼の体に触れてバイタルサインを確認。左の肺が潰れていることが確認できたものの脈はしっかりしており、それ以上の<治療>は敢えて行わない。


それなりに情も移ってるものの、これ以上は、な。


持ち堪えられればそれでよし。このままばんが命を落とすとしても『そういうもの』として受け止めるだけだ。


その一方で、ドーベルマンMPM四十二号機については、ワイヤーを下ろしそれで吊り上げて回収する。地面に落ちた右腕と右前脚も拾い、エレクシアは、下ろされたワイヤーに掴まって、グレイと共にアリアンへと戻っていった。


代わりに、二機のドーベルマンMPMを下ろしてな。


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