蛮編 覇王とその従者

こうして若いヒト蜘蛛アラクネを惨殺したヒト蛇ラミアだったが、今度は食べようとしなかった。食べるには大きすぎたのか、それとも消化器官の一部が破れて食べたものが体内に漏れ出していることが影響しているのか、それは分からなかったものの、とにかく酷い有り様となった若いヒト蜘蛛アラクネをそのままにして、さらに移動する。


途中で遭遇した鳥や小動物を改めて殺害しながらも、やはり食べようとはしない。その様子を見る限り、破壊衝動攻撃衝動そのものがこのヒト蛇ラミアの在り方であって、<食欲>や<生存本能>は行動原理には大きく影響しないという可能性が高いと感じた。


そして遂に、出遭ってしまったんだ。


「グルルルルルルッッ!!」


恐ろしい形相で殺気を漲らせて、自身の縄張りに土足で踏み入った不埒な輩に激しい怒りを見せる<彼>に。


ばんに。


しかも、その前にはドーベルマンMPM四十二号機の姿もある。例の<電磁パルス攻撃>を受ければあの三機のドーベルマンMPMらと同じ運命を辿る可能性は高いものの、ドーベルマンMPM四十二号機にとってばんは重要な観察対象であり、かつ、ヒト蛇ラミアの存在は本来のこの密林に存在する外敵じゃない。元々存在する外敵が相手ならあくまで自然な成り行きに過ぎないとしても、このヒト蛇ラミアはそうじゃない。


<埒外>の存在なんだ。だから敢えて加勢する。


ばんも、勝手にさせるつもりのようだ。


それはまさに、


<自身の国に侵攻してきた強大な敵を迎え撃つ覇王とその従者>


といった風情だったな。


ヒト蛇ラミアも牙を剥き、これまでと同じくただ蹂躙するつもりのようだし。特に、やはりドーベルマンMPM四十二号機に対しては激しい憎悪を見せている。


すると、


「ガアアッッ!!」


ヒト蛇ラミアは返り血で何とも言えない色になった体を奔らせ、ばんではなくドーベルマンMPM四十二号機に向かってきた。普通に考えれば明らかにばんの方が先に対処するべき強敵に見えるだろうに、ばんに比べれば少なくとも見た目は取るに足らない存在でしかなさそうなドーベルマンMPM四十二号機に襲い掛かったんだ。


確かに、ドーベルマンMPM四十二号機はばんの攻撃を凌ぎ切るだけの能力は持っているものの、ドーベルマンMPM三体と戦ったことでその力は承知しているであろうものの、それにしたってこの状況で優先すべき相手じゃないよな。普通は。


例の<電磁パルス攻撃>を使えば確実に勝てる相手のはずだし。


なのに、ヒト蛇ラミアは<電磁パルス攻撃>は使わなかった。どうやら『使えない』ようだ。ここまでに受けたダメージで、特に消化器官が破れ内容物が体内に漏れ出るほどのダメージを負ったことで、電磁パルスを発生させるほどの電磁バーストを起こすことができなくなっていたのかもしれないな。


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