ホビットMk-Ⅰ編 アリアン2CV

「調査を続けていればいずれ発見されるかもしれないとは思っていたけれど、こういう形での再会は、やはり心が痛むね……」


久利生くりうがそう口にする。確かに、コーネリアス号に残っていたセシリアはともかく、ほまれを保護してくれたメイフェアは洞窟の中にいたことでかろうじてダメージが少なくて済み、鵺竜こうりゅうらしき生物に飲み込まれその遺体に包まれた状態だったイレーネは、メンテナンスカプセルによる何度もの復元作業の果てに奇跡的に再起動を果たしたものの、そんな奇跡がそう何度も起こるとはさすがに思っていなかった。


いなかったが……


「とにかく、回収しよう……」


俺はそう決断し、ドーベルマンMPM三機にフライトユニットを装着、ワイバーンⅢ型と共に派遣した。


現場に到着したドーベルマンMPMは、崖から十分離れた位置にアンカーを打設。それにワイヤーを繋いで崖から降下する。


アリアン2CVドゥセボーが発見されたのは、崖の上から約三十メートルの位置。高さ一千メートル級の断崖絶壁での回収作業は、人間ならそれこそ足も竦む危険なものだろう。しかしロボットであるドーベルマンMPMは、たとえ墜落しても死なない。だから恐怖も感じない。


一方、アリアン2CVドゥセボーは、ずっと風雨や日光に曝されていたからかウィッグもまさに死体の頭蓋にかろうじてへばりつくように残ったそれのような状態な上に、外装パーツも劣化が進み色褪せ、装甲スキンさえ触るだけでボロボロと剥がれ落ちていく酷い状態だった。


保存状態を良好に保つかメンテナンスさえ受けていれば数千年単位で劣化しない素材であっても、さすがに二千年も風雨や日光に曝され続ければこうもなろう。


それに慎重にハーネスを掛け、ゆっくりと吊り上げていく。


その作業を、ドーベルマンMPMらは、確実にこなしてくれた。本当に十分な性能を確保できたと思う。


こうして、約一時間をかけてアリアン2CVドゥセボーを崖の上まで移送。改めてドーベルマンMPMらのカメラ越しに見たそれは、本当に酷い有様だった。一目見て再起動など果たせるはずもないと感じる。


でも、


「お疲れ様、アリアン……おかえり……」


「おかえり、アリアン……」


シモーヌとビアンカがアリアン2CVドゥセボーを労わる。続けて、


「おかえりなさい」


「おかえり」


セシリアとメイフェアも、<仲間>を労わった。なにしろ二千年ぶりの再会だからな。


イレーネだけは、当時の記憶のほとんどを失っているので、アリアン2CVドゥセボーのことも覚えていないそうだ。


なんにせよ、ワイバーンⅢ型で運び、とにかくコーネリアス号に収容しよう。


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