新編 絵本

新暦〇〇三四年三月三日




そういうわけで、ビアンカのことについては、向こうに任せるとして、こっちはうららのことだ。


普通のフィクションのように分かりやすく励ますことで立ち直ってくれるのなら楽なんだが、現実ではそんな簡単じゃないだろう? だから苦労もする。


とは言え、焦ったところで事態が好転するわけじゃないのもいつものことだ。これまでと同じく、うららときちんと向き合って彼女の気持ちを受け止めて、時間をかけて対処していくさ。


それに、ひなたからならちゃんと食事もとるようになったし、食欲はまだ戻ってないといっても病的にやつれた印象でもないしで、うん、むしろ順調に推移してると思う。


さりとて、油断はしない。特に、体調については、エレクシアとセシリアとイレーネとでトリプルチェックをしている。そのデータを見ても、深刻な状態じゃないのは分かる。ただ、精神的な活動レベルが低め安定になってるだけで。


で、うららのことは俺達も注意深く見守るということで、ひなたには、それまでの生活パターンに戻ってもらった。


うらら、大丈夫……?」


心配げに俺に問い掛けてくるひなたに、


「ああ、大丈夫だ。任せてくれ。それに、ひなたが元気じゃなけりゃ、うららを助けてあげることもできないだろう?」


きっぱりと答えると、少し安心したように、


「分かった……!」


と言ってくれた。そうして、朝、夜明けと共に起きてきて、じゅんと一緒に朝食の前の軽い食事をとりに密林に入って、帰ってきたらうららの傍に寄り添って、彼女に自分がとってきた果実をあげて食べてもらって、それから今度は俺達と一緒に朝食にして、しばらくひかりとエレクシアに勉強を見てもらって、それが終わるとまたうららに寄り添って。って、してた。


ただ、ひなたうららも一緒じゃないことで、まどかは、すっかり俺達の集落の仲間になった、<ヴァイオレット>、<スカーレット>、<アプリコット>、<ビリジアン>、<ライム>と一緒に走り回って遊んでたが、それも、ひなたうららがいないと十分に楽しくないのかあまり長続きせず、屋根の上で佇んでるひなたうららを見て、寂しそうな表情になったりもした。


すると、ひかりが、


「絵本、読む?」


と声を掛けてくれる。


「うん……!」


これにはまどかも嬉しそうにひかりの膝に座って、シモーヌからひかりへと受け継がれた絵本を読んでもらってた。


血は繋がらないものの実の母親と変わらず接してくれるひかりほどは絵本に熱中するわけでもないものの、遊び疲れた後なんかにはいつも絵本を読んでもらってたりするからな。好きなのは好きなんだ。


こうして、うららだけを見てまどかを蔑ろにするんじゃなく、うららも、ひなたも、まどかもちゃんと見るんだ。


だからこそ、自分の存在が認められてる実感を得られるんだよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る