新編 無神経の極み

まあそんなわけであらたうららのことについて、詳細を明かすことになった。


「そんな……」


「あちゃ~、それは残念」


心配げなビアンカとは正反対に、あかりは、すごく軽い感じの反応だった。とは言えそれは彼女の野生寄りのメンタリティの持ち主だからだということは皆分かってるので、それほど気にしない。野生の場合には、意中の相手にフラれたくらいで大きく落ち込んでいては命にさえ係わるからな。だからと言ってあかりうららのことを軽んじてるわけでもないぞ。


と、それそれとして、


うららのことは、こっちで何とかするよ。だからビアンカは自分のことを考えててくれればいい」


俺はそう告げておいた。実際、日常的にうららあらたのことを見てたわけじゃないビアンカ達に状況が十分に把握できてるはずもないしな。


加えて、ビアンカには久利生くりうとの関係について集中してもらいたい。さらには、素戔嗚すさのおのこともある。うららのことまで気遣ってる余裕はないと思う。


薄情に思うかもしれないが、ここでビアンカやあかり久利生くりうがどうにかしなきゃうららのことも対処できないようじゃ、それは、俺はともかくひかりやシモーヌまで、何もできない程度の人間だってことにもなってしまうからな。しかもこっちには、エレクシアもセシリアもいる。イレーネは、AIの一部が破損していてメイトギアとしての機能が十全に発揮できていないから置くとしても、普通に考えたら十分すぎるくらいの体制なんだ。


その上で、ひなたが一番にうららを労わって、俺達はあくまでひなたのフォローとバックアップを心掛ける。


「ま、うららのことはお父さん達に任せておけばいいよ」


あかりもその辺りはわきまえてくれてて、ビアンカと久利生くりうに告げてくれる。ルコアに至ってはそれこそ直接顔を合わせたこともない余所の家の子供のことだからな。煩わせる必要もないさ。彼女にはビアンカを支えてもらえればいい。


しかも、ビアンカは軍人としてのメンタリティも持ってる。余所の部隊の状況に気を取られて自分の部隊を疎かにするとかは、軍人としちゃそれこそ失格だろう? 久利生くりうも当然、その辺りは承知してくれてる。だから向こうは向こうで頑張ってくれればいい。


改めてそれを確認して、俺はうららの様子を見た。少しやつれたような印象はあるものの、心配になるほどのものでもない。さらに状態が悪化してる印象はない。ひなたが傍で支えてくれているからだろう。


何度も言うが、人生ってのは自分の思い通りにいくことの方が圧倒的に少ないんだ。それをわきまえてれば、失恋だって乗り越えていけるさ。ただし、本人に面と向かって、


『失恋ぐらいで落ち込んでるんじゃない!』


とか言うのは、無神経の極みだろうけどな。


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