新編 労わる気持ち

新暦〇〇三四年二月二十二日




こうしてさらに、


<集落の機能の拡充のシミュレーション>


を目的に無茶な素人アイデアを実現するために動きつつ、うららあらたの様子を見守った。が、ここ数日は、あらたが普通にいたから特に問題はなかった。


ただ、あらたがアカトキツユ村に行った当日とその翌日は、うららあらたにべったりとしがみついて離れようとしなかったけどな。


『自分が離れるとまた彼がどこかに行ってしまう』


と考えたのかもしれない。


とは言え、さすがに三日目にはそれまでの感じに戻っていた。二日間、あらたが徹底的に彼女を労わったからかもしれないが。


しかし今日、また、俺がアカトキツユ村で予定している<透明な滑走路>建設の下見に行く準備をしてると、あらたが近付いてきた。


「行くのか?」


問い掛けた俺には応えず、あらたはローバーのドアを勝手に開けて自分から乗り込んだ。ドアの開け方も把握してたか。


さすがは我が息子。油断ならない。


そうして、再び、俺とシモーヌとエレクシアとあらたとドーベルマンDK-a拾弐じゅうに号機にてアカトキツユ村に向けて出発。うららは、まどかひなたと共に、やっぱりじゅんに連れられて出掛けていた。帰ってきたらまたあの騒ぎになるのかと思うと気は重いが、あのうららの姿を見ても考えを変えないのなら、あらた自身、それだけ覚悟を持ってってことなんだろう。


りんとの間でも、『子供は要らない』『子供が欲しい』で意見が対立し、別れることになったくらいだから、もう、『子を残す』という選択は彼にはないということだろうな。


野生の動物でも、稀に、積極的に子を残そうとしない個体もいるという。あらたがそれなんだと改めて実感する。親としては寂しい気もするが、あらたは決して<俺>じゃない。あらたあらたなんだ。彼の選択を、俺は尊重する。


うららがどれほどあらたを求めても、あらた自身にその気持ちがない以上、無理強いすることはできないんだよ。


すまんな、うらら……




こんな風に互いの<望み>が衝突することは、生きていれば必ずある。好きになった相手に振り向いてもらえないとか選んでもらえないとかは、当たり前にあるだろう? それは紛れもない現実だ。すべてが自分の思い通りになることなんて、ない。


ないが、望みが叶わなかった時の痛み悲しみを労わる気持ちは、忘れたくない。


うららにとってはきっと、死に別れることに匹敵するくらいの辛さだろう。なら、愛する人と死に別れた時と同じくらいの心持ちで、労わってやらなきゃな。


俺も、ひそかを、じんを、ふくを、ようを喪った。そして孫のれんを喪い、娘も同然のきたるも喪った。愛する者を喪う痛みなら、俺も知ってる。


なら、うららの痛みも軽んじるわけにはいかないさ。


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