新編 不思議な感覚

俺とシモーヌとエレクシアとあらたとドーベルマンDK-a拾弐じゅうに号機がローバーに乗り込んで、出発。


拾弐じゅうに号機については、エレクシアのサポートのために随伴するんだ。


ローバーが動き出すと、


「うひっ!?」


あらたが驚いたように声を出す。まあ、無理もないか。これまでほとんど乗ったこともないからな。なのに、なぜわざわざ今回、同行する気になったんだ?


我が子と言えどその辺りはすぐにはピンとこない。今まで興味も示さなかったクセに。


「ううあ、うあ、ういう」


後部座席で窓の外を見ながら何かを呟いた。


あらたは、『変な感じだ。勝手に動いてる』と、言っています」


エレクシアが翻訳してくれる。


<言葉>というものを解析する能力に長けたAIは、たとえ自身のデータサーバにない言語であっても、しばらくそれに触れているだけで解析してしまう。この世界の<獣人達>も多くが非常に簡単で語彙も少ないものの<原始的な言語のようなもの>を持つ種が多く、その中でもパパニアンは言語能力が高いと見られているんだ。


ただし、群れごとの<訛り>がひどいので、体系化することは事実上不可能だけどな。個体ごとの<癖>も解析できるAIを搭載しているロボットならではの芸当だ。特にメイトギアは、人間と緻密なコミュニケーションを取る必要があるから、他のロボットよりもさらに言語能力は高く設定されているんだと。


「なるほど。座ってるのに移動してるというのは、パパニアンにとっては不思議な感覚だろうな」


にしても、どうしてわざわざそんな、パパニアンにとって<異様なもの>であるローバーに乗ろうなんて気を起こしたのか。


まどかひなたならまだ分かるし、実際、時折、<ドライブ>に出掛けることもある。二人にとってはそのまんま<サファリパーク>に出掛けるようなものだろう。とは言え、あらたがいまさらそんなことに興味を持つとも思えないんだがなあ……


そんな俺の困惑をよそに、あらたは、延々と外の様子を眺めてた。途中、ボクサー竜ボクサーがローバーに体当たりしてきたり、マンティアンのかくと遭遇して、


「ひぎゃっ!?」


っと、ガチの悲鳴を上げてパニックを起こしローバー内を逃げまどったりもしたが、それもまあすぐに落ち着いて、いよいよアカトキツユ村へと到着した。


すると、そこには、立派な<集落>が出来上がっていたんだ。


<家>そのものはまだ五軒だけだが、本当に人間が暮らしている小さな集落にちゃんと見える。


そして、あんずとますらおが、


「ようこそおいでくださいました」


「ありがとうございます」


と、丁寧に挨拶してくれたのだった。


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