ビアンカ編 プロローグ

新暦〇〇三四年二月十五日




夷嶽いがく牙斬がざんの一件も一段落付き、ビクキアテグ村にも平穏が戻った。ルコアも順調に回復し、しかも、回復力が人間(地球人)よりもかなり高く、一ヶ月ほどでほぼ完治したようだ。治療カプセルを使わなければ人間(地球人)の場合、全治までは余裕で数ヶ月は掛かるであろう重傷だったのにな。


まあ、その辺は、他の<獣人>達も免疫力や回復力は高い傾向にあるから、彼女だけが特別というわけでもないだろう。


その一方で、牙斬がざんに挑みかかった未来みらいを救おうとした時の動きなどを見るに、潜在的な能力は非常に高いと思われる。みずちほどじゃないにせよ、瞬発力などについてはビアンカすら上回っている可能性があるようだ。


実に頼もしい。


もっとも、彼女の性格からすると、自身の能力を積極的に活かそうというのはなさそうだけどな。


なお、彼女に助けられる形になった未来みらいは、ルコアが回復した途端に彼女の膝(?)に座って絵本を読んでもらっていた。あの一件を反省しているのかどうかその様子からは判然としないものの、もし、反省していないようであれば根気強く諭していくだけだ。久利生くりうもそのつもりでいる。


人間(地球人)だって、一度や二度で完全に改まる例の方が稀だろう。実際、かつて、自動車などもAIによって完全に制御されるようになる以前は、スピード違反や駐車違反で取り締まられても、それだけで反省した者は少なかったそうじゃないか。しかも、AI排斥主義者らが作った都市でも、そういうことがあるとも聞く。


自動車運転免許を持つ年齢であるはずの<大人>がそれなんだから、ましてや子供が一回で改まると考える方が<ご都合主義>というものだろう。


俺だって、自分が、いわゆる<悪童>と呼ばれるほどではなかったにせよそんなに聞き分けのいい子供だった覚えがない。


相手がすぐに自分の思うとおりになってくれるのを期待すること自体が諍いの原因だというのは、人間(地球人)の歴史もしっかりと証明してくれている。


すぐに自分の思い通りにならないからとキレて攻撃的になるんだ。そんな自分の振る舞い自体が、他人にとっては『思い通りになってない』のにな。




とまあ、ビクキアテグ村にも平穏がもどったことで、ビアンカと久利生くりうの関係も一層深まるだろう。牙斬がざんの姿が確認されてから事態が収束するまでの間に、ほんが亡くなり、それをビアンカが悲しんだりもしたものの、これについても久利生くりうが支えてくれた。


そんな風にして、ビアンカと久利生くりうの関係がより強固なものになってくれなければ、あかり久利生くりうにアプローチできないわけで。


あかりの目からは、まだまだ安心できるものじゃないらしい。俺としては、もう十分、強く結ばれてる気がするんだけどな。


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