モニカとハートマン編 一緒に生きよう

正直、俺達は今のこの世界をほぼほぼ受け入れてしまっている。


『認知症などを発症しかねない状態で長生きするよりは、成り行きに任せる』


と考えることもできるようになってしまっている。


でも、ルコアは、まだまだ、


<人間(地球人)としての感性>


が強いんだろうな。例の不定形生物の中の世界で生まれたとは言っても、人間(地球人)の両親の庇護の下で育ってたわけだし。だから、<死>というものについて割り切れないんだ。


いや、俺達だって本当に割り切れてるわけじゃない。家族の死は悲しいし回避したいのは事実だ。でも、当人が望んでいない形での延命はどうなのか? って思ってるだけで。


しかもルコアは、きたるのことは苦手にしてるはずだった。決して『好き』だと言える相手じゃない。にも拘らず、彼女はきたるを案じてくれてる。


まったく…いい子だよ。ただ、それだけに、ここで生きるのは辛いかもしれないが。


それでも、ここで生きる限りは少しずつでも慣れていってもらうしかない。


そうだな。ルコアはまだ生まれたばかりなんだ。赤ん坊は、望まずこの世に送り出されて、様々な<嫌なこと><辛いこと><苦しいこと>に曝されつつ、徐々に馴染んでいくんだからな。ルコアも同じだよ。


しかもルコアにはビアンカがついてる。ビアンカがしっかりと彼女に寄り添ってくれる。


ついつい俺が何とかしたいと思ってしまうが、人間は『自分が』『自分なら』と思ってしまいがちな生き物だが、何もかもを自分一人でやるなんてことはできやしないんだ。何より、ルコアが信頼しているのは俺じゃない。ビアンカだ。だからビアンカに任せるべきなんだ。




で、結局、きたるに治療カプセルでのメンテナンスを受けさせることはできずにビクキアテグ村へ戻ることになったものの、同時に、ルコアもビクキアテグ村に一緒に行くことになった。あれこれ準備のためにコーネリアス号に戻ってただけだったからな。


ビアンカ専用ローバーに、ビアンカとルコアと、さらにモニカとハートマンが乗り込む。ルコアがビクキアテグ村に行くから、二体も一緒に行くことになったんだ。コーネリアス号については、ドーベルマンDK-aとドーベルマンMPMがいれば問題ないし、後に<あんず><ますらお>と命名されることになるアリス号機とドライツェン号機も完成に近付いて最後の調整に入り、それに伴ってアリス号機とドライツェン号機の製造も始まった。号機の完成にはやはり数ヶ月かかるだろうが、どうしてもという時にはモニカとハートマンが応援に駆け付ける手筈にもなってるし、大丈夫だ。


その一方で、残された時間が少ないであろうきたるがいるビクキアテグ村での生活は、ルコアにとっては辛い経験になるかもしれない。


でも、それも含めて<生きる>ということなんだ。


ルコア、一緒に生きよう。世界には辛いことが無数にあるが、俺達は君を見捨てはしない。


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