モニカとハートマン編 状況開始

こうして、様々な事態を想定して二重三重に対策を施し対応を始めた。


「よし、状況開始!」


そう命じて、夷嶽いがくの北側にドーベルマンMPMを降下させ、視認できる距離まで近付かせわざと気付かれるようにガシャガシャと騒々しく接近させた。


すると夷嶽いがくは、捕らえたサイゾウの腹に突っ込んでいた頭を上げ、ドーベルマンMPMらを見た。


が、距離はまだ二百メートルほどある。例の<銃>の射程外だ。


ドーベルマンMPMらはその場に立ち止まり、夷嶽いがくの出方を窺う。


しかし、近付いてこないことを確認したのか、まだ腹が満たされてなかったのか、再びサイゾウの腹に頭を突っ込んで貪り始めた。


まあ、この辺は野生動物と同じだろうからな。少し様子を見よう。腹が膨れて食事を終えればまた動くかもしない。


俺達は、タブレット越しに夷嶽いがくの姿を注視した。


そんな調子で十五分ほどが経ち、また夷嶽いがくが顔を上げた。そして今度は、


「来た……!」


俺が思わず声を上げてしまったとおり、血まみれの頭をドーベルマンMPMらに向けた夷嶽いがくが、のそりと動き始めた。ドーベルマンMPMらに向かって。


ちなみに、ドーベルマンMPMらの装備は、自動小銃がそれぞれ二丁ずつと、二十発入りの予備弾倉がそれぞれ三つずつ。夷嶽いがく相手としてはまったく頼りないことこの上ないものだったが、今の時点では夷嶽いがくを誘導するのが目的であって、撃破じゃない。気を引くだけならこれで十分なはずだ。


実際、夷嶽いがくははっきりと近付いていってる。どうやら誘導は上手くいきそうだ。


だが、夷嶽いがくが近付くごとにドーベルマンMPMらは下がり、約二百メートルの距離は縮まらなかった。


と、そんな様子に何かを察したのか、夷嶽いがくが立ち止まる。


「む……? もう少し、接近してみてくれ」


俺の指示を受けて、ドーベルマンMPMらが前進。百五十メートルまで距離を詰める。


すると夷嶽いがくがまた近付いてきたので、約百五十メートルの距離を保ちながら、後退に転ずる。


なのにそれを見た夷嶽いがくはまた立ち止まってしまって。


「まさか……自分が誘われてることに気付いてる……?」


「……」


俺は思わず声を漏らし、久利生くりうはじっと画面を睨み付けていた。


と、その時、


「え…!?」


画面に映った夷嶽いがくの体が青く光ったように見え、次の瞬間、画面が乱れて消えてしまった。


タブレットには、『NO SIGNAL』の表示。ドーベルマンMPMらが、突然、機能停止してしまったんだ。


「なんだ!? 何が起こった!?」


「直前の映像を!」


慌てる俺とは対照的に、久利生くりうは映像を見直す。


しかしそこには、例の、牙と思しき<白い飛翔体>の映像はまったく捉えられていなかったのだった。



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