麗編 恋に恋してる状態

本心では好きになれると思っていないのに相手の意向に忖度して一緒になってそれで結果として駄目でした。なんて、一番、無駄になるパターンじゃないか? 


『もしかしたら好きになれるかも?』と思って試してみた。というのならまだ分かるんだよ。でも、くだんの同級生の場合は、『好きになれる気はしなかった』って、離婚してから知人に愚痴ってたらしい。『じゃあ断らなきゃだめじゃねーか!?』と、人伝ひとづてにその話を聞いて思ってしまったな。


ただ、あくまで<人伝>だったから、内容がどの程度正しいのかは分からない。分からないが、もし、正しいと仮定するなら、やっぱり、


『好きになれる可能性がないと感じたのなら断るべきだった』


とは、思ってしまうよな。そこで『断るのは申し訳ない』とか『周囲の状況的にこれを断ると面倒なことになる』みたいに思ってしまうような環境自体を俺は作りたくないんだよ。


作れるかどうかは別にしても。


努力するだけならいいだろう? 上手くいかなくても誰かの所為にするつもりもないし。


とは言え、あらたの場合は、うららのことは好きなはずなんだよ。あくまで、その『好き』が『異性として好き』というのじゃないだけで。


あらたが『異性としても好き』なのは、やっぱり、りんなんだろうな。


だけど、


『好きなのに価値観は合わなかった』


わけだな。


本当に、人生というのはままならん。


それでも、あらたりんの場合は、お互いに憎しみ合って傷付け合って別れた訳じゃないっていう点が救いではある。もちろん多少の衝突はあったものの、その程度ならまあ、そんなに目くじら立てることでもないだろうし。


お互いに相手を尊重してるからこそ別れたんだろうな。とは思う。


あらたは、子供ができないことをむしろ肯定的に捉えてる自分が、子供を望んでるりんを縛ることは避けたし、


りんとしては、子供を望む自分があらたをこれ以上責めることは避けたかったんだろうって気がする。


もちろん、人間(地球人)ほどは複雑な思考をしてないとしても、決定的に相手を傷付ける前に別れることを選んだのは事実だ。俺はそれを立派だと思う。


お互いに自分の言い分こそが正しくて相手が折れるべきと考えて徹底的にやり込めようとするケースだって、人間(地球人)の世界では珍しくもなかった。


それに比べれば、二人は本当に立派だよ。


でも、だからこそ、あらたうららの気持ちを受け入れない可能性がある。


それを、


うららが可哀想だ! 彼女の気持ちを考えろ!!』


とは、言いたくない。


しかし、自分に振り向いてくれない相手を想い続けることが、幸せなのか? いや、『振り向いてもらえなくても想い続けられればそれで幸せ』だと思えるんならそうしてもらえばいいとは思うものの、うららがそうだとは限らないからな。


なにしろ彼女はまだ幼い。<恋に恋してる状態>の可能性も、否定できないしな。


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