メイガス編 味覚
どうしてわざわざ自分からマイナスの印象を他人に与えるようなことをするのかが、俺には分からない。
そうやってゴネて一時的に自分を優先してもらえても、周囲からの評価は下がるだけだと思うんだが、そういうのはどうでも良くて、目先の目に見える扱いだけが大事なのだろうか。
やっぱり、俺には分からない感覚だ。
そんなことよりも、やっぱり、自分の家族や親しい者達とこうやって穏やかで朗らかな関係でいられる方がずっと楽しいと思うんだよなあ。
上辺だけ口先だけの関係で、裏に回ったら陰口ばかり。的なのは気持ちが休まらないだろうに。
少なくとも俺はごめんだ。
そう思うから、『自分だけがいい思いをできればいい』って考えができない。シモーヌにも、ビアンカにも、
それを貫いてきたからこそ今があるんだっていう自負もある。
ならばこれからもそれを貫くだけだ。
毎度のことながらこうやって自分に言い聞かせて改めて受け入れ態勢を整え、メイガスを見守る。
池に仰向けに浮かんで体を休めている彼女は、ただただクロコディアの一人にしか見えない。
だから、『受け入れ態勢を整える』と言っても、あくまで気持ちの問題だな。何しろ、クロコディアだから今の<池>が家の代わりになるし、池には食料になる魚も抱負だ。
実は、彼女が目覚めて治療カプセルから出た時に、軽く食事をと思って
一切れ食べて、
「ごめんもういいや」
と。そして、
「えらいもんで、この体になって味覚がまったく変わっちゃったみたいだな。受け付けないんだよ。<調理された肉>ってのが。食べ物だと思えないんだ」
申し訳なさそうにそう言った。
残りは俺達で食べたから無駄にはならなかったものの、やっぱり、ビアンカやルコアとも違うんだな。ビアンカやルコアは、味覚自体は普通の人間(ルコアは生まれた時から<データヒューマン>だったから普通とは言い難いかもしれないが)と大きくは違わなかった。それは、『元の人間の部分が大きい』ことが影響している可能性が高い。
対してメイガスは、頭も何もかもが完全に<クロコディア>だ。だから、舌そのものが、味覚自体が、地球人とはまったく違ってる。
ためしに、池にいた魚を捕らえてそのまま食べると、
「おっ! これぁいい。しっかり脂が乗ってるじゃないか!」
口を血塗れにしながら、骨も内臓もお構いなしにバリバリと食べてしまったんだ。
つまり、そこまで違ってしまっているということだな。
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