メイガス編 人間の友人

久利生くりうが語る。


「僕達のかつての仲間の中にも、戦闘で全身の機能の八割を失うダメージを負った者がいて、彼は、一時的に全身義体化処置を受けたんだ。その時点では、あくまで、再生処置を受けるまでの一時凌ぎのはずだった……


けれど彼は、全身義体の方が、『痛みを感じなくできる』『生身の体よりも強靭で強力なものに変更しやすい』、そして何より、『不安や恐怖を感じなくなった』ということで、再生処置を受けない選択をしたんだ。


彼の言う、『不安や恐怖を感じなくなった』のは、全身義体化の影響として最も顕著なそれとして知られているものだった。


錬是れんぜも知っているだろう……?」


その言葉に、俺も、


「ああ……」


と頷いた。


全身義体化により機械の体を得ると、生身の体が感じていたはずの<不安>や<恐怖>というものが希薄になるんだ。


これまでにも何度か触れたと思うが、人間は、不安や恐怖を覚えると、肉体の方にも反応が出る。胸が苦しくなったり、鼓動が早くなったり、眩暈を覚えたりという形で。これにより人間は、自分が不安や恐怖を覚えていると実感できる。喜んだり嬉しかったりしてもそうだな。<情動>というものは、脳内の反応だけを指すんじゃなく、肉体に現れる反応も込みの話なんだ。


しかし、義体にはそれがない。ソフトウェア上で擬似的にそういう反応を再現するということも行われているものの、やはり生身のそれとは違っているのも事実らしい。


このことにより、時間と共に共感性が低下。人間性が変化し、多くの場合は自分が特別な存在になったと考えるようになり、他人を軽んじ、力によって従えようとするんだとか。


これが、AIによって制御されているロボットの場合は、元々人間のような感情や心を持たないことで、『その状態が普通』だから、何も問題ないんだけどな。


そして……


「全身義体化により力に溺れた彼は、更なる力を求めて強力な戦闘用の義体への交換を望んだんだ。


軍は、あくまで軍に所属することを条件にそれを許可し、彼は軍の管理の下、自身を強化していった。


だが、強化すればするほど、人間としての彼の行動は制限され、家族と会うことすらやがて望まなくなっていった。彼にとって、ただの人間でしかない<家族>は、もう、自分の仲間ではなくなっていたんだろうな……


そして、僕とビアンカが知る限りでは、最終的に彼は、完全に戦闘用宇宙艇になっていた。そう。戦闘用宇宙艇を制御するための生体パーツになっていたんだよ……


しかも、人間に対して攻撃的にならないように、常時、薬物によってコントロールされる、ね……


それでも僕は、彼を<人間の友人>として接しようと心掛けた。けれど彼自身は、もう、自分を人間だとは思っていなかったんだ……」


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