当編 残念な結果

この時、メイガスを俺達の集落に誘導するのは、ドローンでもよかったのかもしれない。その方が、しち号機と拾弐じゅうに号機が到着するまでの時間を無駄にせずに済んだんだろう。


だが、俺はこの時、本当に何気なく、ドーベルマンDK-aを迎えに寄越した方が、いろいろ説明が省けるような気がしてしまったんだ。彼女が知る<世界>とは、様々な部分で違っていることが感覚的に伝わるんじゃないかと。


メイトギアもいながら、彼女の感覚からすれば非常に旧式で簡素なロボットも運用されている現状が。


加えて、メイガス自身、あたるが泳ぎ去った川を見詰めて、何かを考えているようだった。彼女としても、いろいろ、踏ん切りをつけるための時間が必要だったのかもしれないな。


その一方で、今回、あたるにとっては残念な結果になったと思う。なにしろ、


『信じてた雌が我が子を得体のしれない生物に渡してしまう』


などという有り得ない事態に至ったんだからな。


とは言え、『パートナーや子を喪う』なんて事態そのものが野生に生きるクロコディアにとっては特別なことじゃないのも事実だし、あたるも、そういう意味ではすぐに切り替えていってくれるだろう。むしろその切り替えができずにいつまでも過去を引きずるようなやつでは生き延びることも難しいというのがこの世界というものだ。


大丈夫。あたるはけっこういい歳になるまでこの世界で生き延びてきたんだし、実際、何人もの雌と子を生してきてる。これからもそれを繰り返していくだけだろう。




そんなわけで、あたるのことも気には掛けつつも、当面の問題はメイガスだ。


彼女は、<地球人、メイガス・ドルセント>としての人生を捨て、クロコディアとして生きることを選んだというのに、いまさら人間と関わることになるわけで、それについても果たしてどうなるのか……


さらには、ルコアとのことだ。メイガス自身、当然のことながら、自分の娘がサーペンティアンとしてこの世界に生まれ出ている事実を知らない。それどころか、もしかすると、シモーヌやビアンカや久利生くりうがそう認識してたように、


<ルコアを生まなかった世界線のメイガス>


である可能性さえある。


まあ、その場合であれば、外見も完全に変わってしまっていることだし、<同姓同名の別人>ってことを貫けば逆に問題は生じないかもしれない。クロコディア以外の何ものでもない外見に生まれついたことが逆に幸いする可能性もある。


が、問題は、彼女が本当に<ルコアの母親>だった場合だ。その事実を隠して別人としてルコアと接するか、母親であることを明かすか……


状況がさらに複雑になってきたなあ……


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