按編 理論上は

『一部の特徴が、コーネリアス号の乗員に非常に類似しています』


セシリアの言葉に、


「やはり…か」


俺も思わず呟いてしまう。


錬是れんぜ……」


シモーヌも察していたようだ。そこに、セシリアが改めて告げる。


「頭部の特徴の十八パーセントが、コーネリアス号乗員、<ディルア・ルバーン>、十六パーセントが、<メイガス・ドルセント>に酷似しています。二人の血縁者と判断しても矛盾はしません」


あの不定形生物については、俺が一番目にしてきている。次いでシモーヌだ。そのおかげもあって俺達にはピンと来てしまった。


セシリアの推測を、ビアンカと久利生くりうにも告げる。


「そうか……あの不定形生物の中で生まれた二人の子供、ということか」


さすがに久利生くりうも察してしまう。


「確かに、理論上は有り得ますけど……」


ビアンカも息を呑む。


そう。シモーヌのオリジナルの方の<秋嶋あきしまシモーヌ>があの不定形生物の中で十枚とおまいアレクセイとの間に<瑠衣るい>という娘をもうけたのと同じく、ディルア・ルバーンとメイガス・ドルセントの間に子ができて、その子が今回、サーペンティアンとして生まれた可能性が高かった。


しかも、<人間のメンタリティ>を持った状態で。


こうなれば、放っておくわけにもいかない。


「ビアンカ! グレイと一緒に向かって彼女の保護を頼む!」


俺はそう依頼した。俺の指示がないと、コーネリアス号の制御下にあるグレイは新たな動きができない。


コーネリアス号に近い久利生くりう達にすぐに情報が送られなかったのも、結局は俺を経由しないと情報が出せないからだ。コーネリアス号のAIが唯一<人間>と認めている俺を。


この辺りの四角四面な対応は、AIである以上は仕方ない。人間がそういう風に作ったからな。


とは言え、俺が指示を出せば後は十分に任せられる。


「すまん。俺がもっと早くに気付いていれば……」


グレイと共に草原を駆け抜けるビアンカに詫びる。


「いえ、二人を知っている私と少佐でもすぐにはピンと来なかったんです。普通はこんなこと思い付きません! それよりもとにかく急ぎます!」


そう言ってビアンカは走る。


なお、どうしてローバーを使わないかと言うと、ローバーは、不整地を安全かつ確実に踏破するためのものなので、実はそんなに速度は出せない。数キロ程度の距離なら、ビアンカが自分の脚で走った方が早いんだ。グレイも、乗員の安全を考慮しなくていいロボットだから、多少の危険は無視して速度を出せるしな。


こうして僅か数分で、ビアンカとグレイはコーネリアス号へと辿り着いたのだった。


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