アリニドラニ村編 惑星朋群初の

新暦〇〇三十二年九月十三日。




ここまであれこれ『やらかし』ながらも、斗真とうまは確実に様々なことを身に付けていった。


鉄のインゴットをいじって落とすこともしなくなったし、ふいごを変にいじることもしなくなった。


人間社会でやらかしたら確実に<お説教>じゃ済まないことも、アリニドラニ村ではすべてが<実験の一環>だ。


斗真とうまは、俺達に貴重なデータを提供してくれている。


『<獣人>の中にも科学や技術に対して強い関心を抱く者がいる』


ということが分かったのも、大変な僥倖だな。


今では、ドラニと一緒にふいごを踏んだりもしてくれているんだ。自分で体験してみることで、斗真とうまは、ものすごい勢いでたくさんのことを身に付けていってくれてる。


だから敢えて、休む必要がないからこれまではメンテナンスの時以外はずっと働きづめだったアリニとドラニに、


『家で休む』


ようにしてもらった。


家の建設も高炉での鉄の試作も、作業時間を短縮。『仕事は宵の口』までにして、人間のように仕事を終えて斗真とうまが住み着いた家に帰って休むようにしてもらったんだ。


すると斗真とうまも、アリニとドラニと一緒に『家に帰って』休むようになってくれた。


改めて部屋の隅を<自分の居場所>と決めて、寝るように。


彼にとってはもう、アリニとドラニが<家族>なんだろうな。


こうしていずれは、もっといろんなことができるようになっていくかもしれない。


ルプシアンの世界にはもう戻れなくても、彼は今、とても生き生きとしている。毎日がすごく楽しそうだ。


ルプシアンとして生を受けながらも、それは彼にとっては望む生き方じゃなかったのか。


彼がもし、<道具>をちゃんと使いこなせるようなら、鉄を加工する技術を身に付けてもらってもいいかもしれないな。


そう、


<鍛冶職人>


だ。


今は試作段階の粗悪な鉄でも、鍛冶職人の手にかかれば<鋼>に変わる。


ははは、すごいぞ。惑星朋群ほうむ初の<鍛冶職人>の誕生の瞬間に立ち会ってるんじゃないのか?


なにしろ斗真とうまは、溶けた鉄との距離感も掴みつつあるようだ。離れすぎず、近付きすぎず。


真っ赤に焼けた鉄を、彼は、まるで美しい宝石を見るような目で見てる。


彼にとってはとてつもなく価値のあるものに見えているんだろうな。


とは言え、きっと一年や二年でできることじゃないだろう。五年、十年のスパンで考えなきゃいけないだろうな。そのためには、まず、道具を使えるようになってもらわないと。


だがそれについては、そんなに時間はかからないかもしれない。今でも時々、ドラニが溶けた鉄を入れた容器を運ぶ時に使ってる<やっとこ>を自分でも使って物を掴んだりしてるしな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る