保編 新鮮な驚き

新暦〇〇三十一年三月二十五日。




たもつすばるの関係は、必ずしも良好とは言い難いが、かといって険悪というわけでもない。


基本的にはお互いにこれといって干渉するでもなく、それぞれ自分の役目をこなしてるだけ、って感じだろうな。


なにしろすばるの方はとどろきにばかり対抗心を燃やしてて執着してるだけで、たもつのことはそれこそ眼中にもないって感じだったし。


一方、たもつの方も、すばるが何をしてても特に関心を示さなかった。


自分とは噛み合わないタイプだと承知してるんだろう。


人間社会でもよくあるよな。ただ、ここで相手を毛嫌いして要らんことをするとそれがトラブルの原因になる。だからこういうのは不干渉に徹するのがコツだと俺は思ってる。相手が絡んでくるならまた対処法を考えなきゃいけないにしてもそうじゃないなら関わらないのがやっぱり一番じゃないかな。


ましてや相手がスルーしてくれてるというのに自分から絡みに行くとか、まったく意味不明だろう。


そういう意味では、二人は上手くやってくれてると思う。


が、ここに来てみどりすばるに関わり始めたもんだから、たもつの様子にも少し変化が。


それまでは、意識してか無意識かは定かではないもののすばるとは距離を取って寛いでいたのが、みどりすばるの毛繕いをしていたりすると、明らかに今までより近い距離で、しかも無関心を装いつつちらちらと様子を窺ってるのが、メイフェアにはバレバレだった。


たもつ様はきっと、みどり様のことが心配なのだと思います」


メイフェアのその報告には、俺も、


『さもありなん』


と思わされてしまったな。


しかしなんとも、まるでラブコメ物の漫画のような展開だ。


『お兄ちゃん大好きな妹がべったりな状態が普通だった兄が、妹が他の男と接近するようになってやきもきする』


とか。


はっは~! ベタ過ぎるぞ!!


などと思いながらも、まあ、自分の孫のことだからそれなりに気になったりもするわけで。


「取り敢えず様子見ですね、お祖父さん♡」


シモーヌがちょっと悪戯っぽく言ってくる。


むう……


「まあ、そうだよな。それしかないよな」


俺としても、<祖父の立場>で孫の人間関係に口出しするというのは、親としての立場以上に何か違う気がするし。


なにしろ、たもつをこの世に送り出す決断をしたのは俺じゃなく、ほまれだ。そのほまれを差し置いてっていうのは、うん。


加えて、たもつみどりも、実年齢はまだ二十過ぎでも、パパニアンとしてみればまあまあいい歳なわけで。


しかも、大きなトラブルになっているなら見過ごせなくても、少なくとも今はそういうのじゃないというのもある。


いやあ、<親の気分>とはかなり趣が違いますな。


初孫が生まれてからももう二十数年経ってるというのに、今なお新鮮な驚きを味わわされるよ。


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