保編 指示

ズドン!という感じで防御した腕ごとすばるの胸に打ち込まれた蹴りは、容赦のないものだった。


エレクシアやメイフェアから体術を教わったほまれと、そのほまれから技を教わる形になったとどろきすばる達のそれとは違う、徹頭徹尾、実戦の中でのみ培ってきたであろう石の棍棒の様な印象さえあるその一撃を受けたすばるが、まるで人形のように力なく地上に向かって落ちる。


「……っ!」


それをメイフェアが受け止めた。


同時に、バイタルサインを確認。すると心臓の筋肉がデタラメに痙攣していることを検出。


<心室細動>だ。心臓が血液を送り出すポンプの役目をせず、血液が循環しない。このまま放置すれば、まず間違いなくすばるは死ぬ。


錬是れんぜ様! ご指示を!」


緊急事態を示すデータと共に、メイフェアが、唯一の<人間>である俺に指示を求めてくる。


だから俺はすかさず、


「救急救命モード! すばるを助けてやってくれ!」


と指示を出した。これは一日二十四時間(厳密にはここの一日は二十四時間じゃないが)年中無休で俺の役目だ。睡眠中だろうがトイレ中だろうが関係ない。


いかに<感情のようなもの>を備えてるとは言ってもメイフェアはロボット。原則、緊急対応は自分では行えない。


……はずなんだが、グンタイ竜グンタイの女王の時には、勝手に戦闘モードを起動してたな。シモーヌの形質を再現していた女王を<人間(に準じた存在)>と彼女の<感情のようなもの>が認定し、守るために戦闘モードを起動させたんだ。


これは、当時は敢えてそこまで突っ込んで考えなかったが、正直言って<誤作動>のレベルで、非常に危うい話でもある。


メイフェア達で試された、


<ロボットで感情を再現する試み>


が結局は正式採用されなかったのは、もしかすると他でも同じようなことがあったからかもしれない。


人間が作った道具が、人間じゃないものを守るために人間に背いてたんじゃ、それこそ本末転倒だからな。もちろん、違法な密猟などの事例を除いてであるが。


で、現在は、とにかく俺に指示を仰ぐように申し渡してあるんだ。


その一方で、彼女が<主人(仮)>としているほまれの命令については、基本的に従っていいということにはしてある。俺が指示を出せない場合なんかの時には、ほまれの指示で動けるようにな。


もっとも、彼女の場合は、俺の指示がなくてもそうするだろう。


相手がほまれだから俺としてもそれでも構わないが、もしこれが俺達に敵対してる存在だったりしたらと思うと、うすら寒いものも感じてしまう。


いやはや、感情というものは実におっかない。




と、俺が脱線している間にもメイフェアは自身に備えられた<AED機能>を用いて除細動を行い、すばるは一命を取り留めたのだった。


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