來編 ビクキアテグ

新暦〇〇三十二年十二月七日。




胎児の成長は、すごく順調だった。いささか皮肉なくらいに。


けれど、生まれてくるのは人間の姿を持った子だ。見た目にもクロコディアと分かる子じゃない。


だから、生まれた瞬間にきたるに我が子だと認識してもらえず、そのまま食われてしまったり、水中に放置されて溺れ死ぬ可能性も高い。


実際、クロコディアがそういう子供を生んだ場合、その場で食べるか、見捨てて川に流されていくのを放置するかで死ぬことがほとんどだと見られてるし、それを窺わせるデータもある。


できれば救出して俺達の群れに迎えてあげたいんだが、なにしろドローンやプローブではクロコディア相手だと手出しのしようがない。


せめて陸上ならドローンで注意を引いている間にエレクシアやメイフェアやイレーネを急行させてということもできるかもしれないものの、水中ではよほど近い場所でないと間に合わない。


俺達の<家>から一番近い河にエレクシアを急行させてぎりぎり間に合うかどうかというレベルだろうな。


だから、そういう部分では割り切るしかない。


それが現実だ。だからいまだに、幸いにもそのまま大きくなれたじゅんのケースはまた別として、助けられたのは、パパニアンのまどかと、マンティアンのれいの二例だけという……


しかし、だからこそ、助けられる可能性が高いケースでは、確実に助けてあげたい。


そのための準備は怠らない。




一方で、久利生くりうの<群れ>も、実に順調だった。上空から見れば草原の小さな川縁にぽつんと、数件の建物が並ぶ小さな集落になっている。あかりが乗る<ミレニアムファルコン号>のカメラから捉えられた映像だ。


また、今はまだ人間が住んでないから厳密には<集落>とは言えないだろうが、アリゼドラゼ村とアリニドラニ村も、上空から見ただけなら、俺達の<家>がある集落よりも建物も多く立派に見える。それも含めると、形の上では四つの集落が誕生している状態だな。


既に村の名前も付いている。きたるの妊娠が判明したすぐ後で、村の名目を決めようという話になって、


あかりが考えてくれたらいいよ」


その日の作業を終えて夕食をとっている中で、ビアンカがそう言ったんだ。


「そうだな、それがいい」


久利生くりうも穏やかに微笑みながら賛同してくれる。


ちなみに俺とシモーヌとひかりじゅんまどかひなたれいも、ビデオ通信を通じて、一緒に団欒してる状態だ。


「いいの? お父さん」


あかりが訊いてくるから、


「もちろん。あかりはもう自分で責任も負えるようになった立派な一人前の大人だからな」


と、俺も応える。


実際、彼女は久利生くりう達の集落の柱の一本だ。それも、久利生くりうも認める心柱しんばしらだ。


するとあかりは照れくさそうに頭を掻きながら言った。


「う~ん、じゃあ、私達四人とテレジアとグレイの名前を取って、<ビクキアテグ>でどう?」




こうして、<ビクキアテグ村>が誕生したのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る